本書は、タイトルをみた時に、「鳥葬」という馴染みのない風習を表す単語に惹きつけられて、手に取りました。表題の短編を併せて、全部で8つの短編が採録されています。幾つかの作品を除き、「気味の悪い」作品が多いです。そしてのその「気味の悪い」作品ほど、面白い気がします。あくまで、趣味の問題ですが・・・。
短編「柔らかい家」は、主人公の男が、夜道に迷い、野中の一軒家を見つけて、辿り着いたところから始まります。
戸を叩くと、家の主人ができて「・・・あなたは運がよろしい。夜になるとこのあたりは、いろいろ剣呑なものが出没しますからなあ。」と親切に行って、家の中に入れてくれます・・・が、ホッとしたのもつかの間、家の中は、なんとも奇妙な生き物が溢れ、一種の生態系を構築しています。
姿が見えるわけではないのですが、家を案内してくれる主人の説明(「そっちは危ないです・・・色々居ますから」といった感じ)で、この家が、化物といってもよい生物との共存を強いられる場所であることがわかります。
主人は親切に食事もご馳走してくれますが、そのご馳走は・・・やはりその家に棲息している生き物をとっ捕まえて、調理したものなのです。主人公は、これらの説明に、一言も口をはさみません。原則、物語は、案内役の家の主人のモノローグで進んでい行きます。まあ、あっけにとられて、ものも言えないという感じでしょうかね。
様々な生き物が棲息していますが、そのバリエーションや、奇妙さをみるにつけ、作者の想像力の素晴らしさに、感動を覚えます。ただ、これを読んでいるときに、なんとなく「風の谷のナウシカ」を思い出すのは、私だけでしょうか。
表題になっている「鳥葬の山」は、はるばるチベットに休暇旅行に行った男の話です。
彼はそこで偶然、「鳥葬」を見学できることを知ります。 作中では、主人公の視点から、その鳥葬の様子が、極めて具体的に語られます。
鳥葬というのは、単に死体を山の上において、鳥に食べさせるだけではなく、きちんと跡形もなく、この世から消し去るために、様々なプロセスを経る必要があるのだということがよくわかります。そのプロセスが・・・非常にグロテスクで気味が悪いのです。
そして物語の最後、鳥葬を見学している時のちょっとした行動が原因で、日本に帰った主人公を大量の鳥が襲います。まるでヒッチコックの「鳥」のようなシーンが展開され・・・。
ということで、鳥葬というまず日本人には馴染みのない儀式と、最後のスリリングな展開が面白い短編です。表題作になるだけあり、私はこれが一番、気に入りました。
もっとも、このように気味の悪い作品ばかりではありません。
「超高層ハンティング」は、超能力者同士の闘いを描いた話で、いかにもSFが母体の作者らしい作品です。
将棋の名人戦のような、相手の行動の先を読みあう、緊迫感のある戦闘シーンの描写も素晴らしいですし、最後につきつけられる超能力者の悲しい宿命も、なかなか面白いところです。
「渓流師」は、前半の美しい自然描写と、サラリーマンの主人公が、会社をサボって行った久々の自然の中で、大きな開放感に浸る場面の描写が、なんとも言えずよいと感じました。まあ、これは単に私の願望を反映しているだけの感想ではありますが。
最後には、大自然単独行につきもののアクシデントが起こるのですが・・・。
夏には、皆様も自然の中に出かけられる機会が増えるとは思いますが、くれぐれもご用心を。準備は万端に。
原則、気味悪い作品が多いですが、それ以外にも、様々なテーストの短編が収録されており、過去、多彩な作品を発表している作者らしい、短篇集に仕上がっているかと。
色々あるので、なんとなく得した気分になれます。また、非日常の世界が広がっているため、日常を忘れたい人には、まさにぴったりです。
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