横に立っていた爺さんが言った
「こっち、空いてますよ」
一つだけ色違いの赤いシート
誰かが座っているのを見たことがない
「いえいえ、あなたこそ、どうぞおかけください」
少しこまった表情の爺さん
「私はすぐに降りるので、どうぞおかけください」
ボクは丁寧に断った
翌日、こんどは中学生の女の子
「こっち、空いてますよ」
「キミが座ったらどうだい?」
当惑顔の女の子
「私は元気なので、どうぞおかけください」
ボクはお礼を言って断った
さらにその翌日
こんどは公立校教師風のオネーサマ
「お掛けになったら?」
「いえいえ、どうぞお掛け下さい」
気付くと、周囲の視線が集中している
(オッサン、いい加減座れよ)
ボクは無性に悲しくなった
そして、モーレツに腹が立った
翌日
ボクは行動した
始発から乗り込み、
全てのシートを赤く塗り潰してやった
呆然としている爺さんの禿げ頭に
はげヅラをかぶせてやった
唖然としている女の子
宿題を100日分増やしてやった
愕然としているオネーサマには
厚化粧の上からナチュラルメイクを施してやった
最後に、
とっても顔が大きなバンチョーが乗ってきた
ゆっくりと中を見回すバンチョー
ボクと目を合わせると、一言つぶやいた
「そろそろ・・・夏も終わるな・・」
ボクは嬉しくなって
とびっきりの笑顔でうなずいた