虚構のサンクチュアリ
先日、どなたかのツイートで紹介されていた宮崎駿監督の『On Your Mark』を観ました。5分ほどの短編アニメなのですが時は近未来、人類は、乱造した原発のメルトダウン事故により汚染され地下に潜って生きています。食べ物も汚染され魚介類はバイオ合成。しかし地上はのどかな田園風景。
宮崎駿「緑はあふれていて、ちょうどチェルノブイリの周囲がそうだったようにね。自然のサンクチュアリ(聖地)と、化している。で、人間は地下に都市を作って住んでいる。実際はそんな風には住めなくて、地上で病気になりながら住むことになると思いますが」(15年前のインタビューより)
15年前ってすごいと思いませんか?体制側が捕獲した『羽根の生えた少女』を二人の正義感あふれた警官が『EXTRA DANGER』と掲げられたメルトダウンした石棺の近くに帰してあげるのですが、あれは放射能で畸形となって生まれてきた人間を表現しているのではないかなとも思います。
宮崎駿「チェルノブイリの住人は被曝していると言われても、他に知っている土地はないし、その場で暮らし続けて、この芋は汚染されてるんだよって、笑いながらそれを食べるという生活をしていた。あれが我々の未来図」(インタビューより)
やはり核戦争後の世界を描いた『風の谷のナウシカ』。人類は放射能汚染された腐海の片隅に生きています。腐海の植物は瘴気という放射能物質を噴出します。こんな台詞があります。
ナウシカ「地下500mから上げたきれいな水と土では腐海の木々も毒を出さないとわかったの。汚れているのは土なんです。なぜ誰が世界をこんな風にしてしまったのでしょう?」
『風の谷のナウシカ』はもう25年以上前の映画です。まるで福島第一原発事故による土壌汚染を予想していたかのような展開。宮崎監督の先見の明に改めて頭が下がる思いです。
『On Your Mark』も『風の谷のナウシカ』も共通しているのは美しい草原や田園風景、森です。放射性物質は色も臭いも味もありません。見た目には何も変わっていない美しい風景がそこにあるんです。それが本当の放射能の怖さ、恐ろしさ。それを宮崎駿監督はずっとずっと前から我々に訴えかけていたのです。
チェルノブイリ原発の10km圏内は世界で最も放射性物質で汚染された地域ですが、人間が退避したこの場所は驚くべき事に多くの絶滅危惧種にとって豊かな生息地になっています。そこに存在する放射性物質の90パーセント以上はその土壌に集中しています。
福島県は本来とても良い土壌でとても美味しい野菜がとれるそうです。そして放射性物質で汚染された地域で獲れる野菜や果物は今でも(放射性物質は味も臭いもしませんから)美味しいままなんです。風景も自然も土も見た目にはきれいなままなんです、悲しいことに。
東京に住む我々もまたガイガーカウンターを持ち歩き計測していると理不尽な現実を突き付けられます。人工的な建造物、舗装道路やコンクリートではすでに雨水に流され低い線量を示すのですが、きれいな植え込みや川の土手、新緑まぶしい公園など自然な風景から高い線量を示すことが多いのです。これはひとえに原発から噴出されたセシウム137(半減期30年)が土に吸着しやすく、かつ吸着すると水に溶けない性質を持つからです。
有志で東京を回り、いまだ東京にも多くの緑や自然が残っているのを肌で感じました。いつまでも残したい風景です。親水公園や計画的緑地など多くの自然を残そうと先人たちの努力のあとが偲ばれます。夕暮れの川の土手ののどかな風景、しかしそこに線量計をおろすと…。もう寝ころべない現実がそこにあります。
我々のすぐ近くにある自然の本当の美しさを奪ってしまった原発、そしてそれを推進してきた国や企業、メディアを激しく憎悪します。最後に宮崎駿監督のインタビューにある一文で締めさせていただきます。
『我々は血を吐きながら、繰り返し繰り返し、その朝を越えて飛ぶ鳥だ』