何回も行ったオペラの第一位は何か? 人によって意見が分かれるところであるが、私の場合はモーツァルトのドン・ジョバンニである。
第一の理由は、私がErwin Schrott というバリトン/バスの大ファン(ほぼ追っかけに近い)で、彼は、この劇のドン・ジョバンニはだけでなく、従僕のレポレッロの二役を得意とし、よく有名劇場から抜擢されているからだ。
第二の理由としては、音楽がいい。モーツァルトのオペラの中で個人的に一番、不協和音とモチーフがドラマティックに使われているからだと思う。また、フィガロの結婚と同様に、モーツァルトが一人の人間の感情が複雑であることを音楽によって表現しており、聴けば聴くほど理解した気になるからかもしれない。
第三の理由としては、この劇が人気があるがゆえに何回も上演されるため、集客がある意味で難しいので、リピーターにも関心を持ってもらうためか、プロダクションも工夫をこらしていて、どういう風に、ドン・ジョバンニが料理されるかが期待できるからである。
第四の理由として、あえて挙げればドン・ジョバンニは主役であるのだが、他のかなめの人たち(ドンナ・アンナ、ドン・オッタービオ、ドンナ・エルヴィラ)の個人的技量がわかりやすく、将来のスター(ツェルリーナとマゼット)を早めに見出すことが出来るのも面白い。
というわけで、明日ヴェローナにErwin Schrott のドン・ジョバンニをみにいくがこれで劇場で観るのが通算37回目(そのうち彼が出るのは27回)となる。
はじめてErwin Schrott を観たのは、2002年のロンドンのROHで、彼はレポレッロとして出ていた。その時のドン・ジョバンニはGerald Finley、面白いのがAnna Netrebkoがドンナ・アンナとして共演していたことである。その時は、声がいいとは思ったものの、こう追っかけまでしたいと思うような印象はなかった。その後、フィレンツェに移り住み、2005年5月に今度はドン・ジョバンニとしてやってきて、印象的であった。がしかし、それでも若い新進の将来性のある歌手遠吠えを深くしたにすぎなかった。
ところが、同年の9月に Verdi の I Lombardini alla Prima Crociata に悪役の パガーノで出たのだが、ダブル・キャストで、もともと私が買っていたチケットには彼は出る予定がなかった。フィレンツェの大家さんのご主人のほうが同日のサッカーの試合を優先し、観に行かないと宣言したおかげで、お鉢が回ってきのが、運命だったように思う。兄嫁に横恋慕をした挙句、父親を兄と間違って殺し逃亡。その時の恋に盲目となった手段をも選ばぬ、その迫力のある演技と声に圧倒されてしまった。第二幕目は、打って変って彼が逃亡の果て隠者となり、時の十字軍とアンティオキアの戦いの中、十字軍を陰ながら助けてゆく。 最後には重傷を負うが、兄との和解を遂げ死んでゆくのだが、全く違った役を(初めは違う人が演じているのかと思うほど)、人格が変わった姿を見事に演じていたのに驚いた。
そして、自分のもともとのチケットで同じものを三日後に観に行ったのだが、なんともがっくり。これが、同じオペラ?! それまでダブル・キャストと知らなかっただけに、耳がおかしくなったのかと最初は思ったものの、(遠い席で見た目にはわからず)このひとりの歌手でこうもオペラが違うのかと知った、最初の機会であった。
そこで、しつこく彼の出る日のチケットを買い観に行ったところ、最初の日の感動にもまして、それを通り越して感激! 帰って調べてみるに、1998年のドミンゴ主催のコンクール、オペラリアで見事に一位の実力とのこと。それから、彼の成長を観る機会を得るために、追いかけることになる。
全く持って、大家さんに感謝(ご主人の方にかな?)!!
オペラリア
http://www.operaliacompetition.org/competition/winners?year=1996
