カレン「わあ、見て!花嫁さんだよ、ユウお兄ちゃん」
それは今から15年前のこと。
近所にある神社の前を偶然通りかかったカレンは、感嘆の声を上げた。
神社で式を挙げている白無垢の花嫁を見ると、一緒にいる男の子に笑顔を向ける。
カレン「私、大きくなったら花嫁さんになりたい!」
男の子「それが、カレンちゃんの夢?」
カレン「うん!」
男の子は眩しそうにカレンを見つめると、彼女の小さな手をきゅっと握りしめた。
男の子「きっとカレンちゃんなら、きれいな花嫁さんになるよ--」
カレン「--よし。あとはレースをつければ終わりだ」
開催されるたび、大きな話題になるピエールさんのブライダルコレクション。
今年はそのコレクションで、デザインを起用してもらえることになった。
そのため私は、朝から晩までウェディングドレスの制作に打ち込んでいたのだけれど…。
(あれ?レースが足りない…)
ドレスに縫いつけるレースが予定していたよりも多く、在庫が切れてしまった。
カレン「どうしよう…今日中に欲しいけど…」
今から買いに出ると、ドレスの仕上げに間に合わない。
と、その時、ドアをノックしてユウお兄ちゃんが顔を覗かせた。
ユウ「どうしたの?カレンちゃん。何かあったの?」
カレン「ユウお兄ちゃん…!実はレースが足りなくなっちゃって」
ユウ「それなら、一緒に買いに行こうか。ちょうど午後から時間が空くし、車を出すよ」
カレン「本当?ありがとう…!」
ユウ「可愛い彼女が困っているんだから、放っておけないよ」
やさしい口調で言うと、ほほ笑むユウお兄ちゃん。
(彼女って…なんか照れちゃうな)
ユウお兄ちゃんと私は、周囲に内緒でお付き合いをしている。
今はお互いに忙しくて、ふたりの時間は持てないけれど、時折こうして様子を見に来てくれていた。
ユウ「それじゃあ、あとでね」
カレン「うん」
(ちょっとデートみたいで嬉しいな…)
私はウキウキとした気分で、買い出しの準備を始めたのだった。
(そういえば、ユウお兄ちゃんとふたりで出掛けるのって久しぶりかも)
チラチラと、運転するユウお兄ちゃんの顔を盗み見る。
すると不意に、ユウお兄ちゃんがクスクスと笑みを零した。
カレン「どうしたの?」
ユウ「いや…ちょっと、昔のことを思いだしたんだ。カレンちゃん、子供の頃に神社で、花嫁さんになりたいって言っていたの覚えてる?」
カレン「うん。覚えてるよ」
ユウ「今じゃカレンちゃんは、花嫁さんの衣裳を作る方になちゃったなって思ってさ」
(本当は花嫁さんにだって、なれるものならなりたいんだけどな…)
だけど、それを口に出すのは恥ずかしい。
私は照れくささを隠すように、わざと冗談っぽく言った。
カレン「そうだね。今は他の人が着る衣装のことで精いっぱい。早く一人前にならないとね!」
ユウ「…」
カレン「ユウお兄ちゃん?」
黙り込んでしまったユウお兄ちゃんに声をかける。
するとユウお兄ちゃんはハッとしたように笑顔を作った。
ユウ「カレンちゃんの夢、応援しているよ」
カレン「うん。ありがとう」
(少し様子が変だと思ったけど…気のせいかな)
いつも通りに優しい笑顔を向けてくれるユウお兄ちゃんに、不思議に思いながらも笑顔を返した。
お城に戻ってくると、ちょうど公務から戻ってきたグレン王子の公用車が見えた。
私とユウお兄ちゃんに気付いたグレン王子が、こちらへ寄ってくる。