とても長い記事になります。

 

アフリカ系男性、ジョージ・フロイドさんが警官に不当に押さえつけられ死亡したという事件から、アメリカ全土、またアメリカの外でも人種差別に抗議して大変な騒ぎになっています。

アメリカの人種主義・人種差別は本当に根深いものがあります。

 

まずアメリカ社会はどうしても「人種別」に考えられてしまう社会で、それには私も10年以上住みながら馴染まないものがありました。

国勢調査もですし、心理学の研究などでもかならず「人種」は聞きます。(ヨーロッパ系、アフリカ系、ラテン系、アジア・パシフィック系、ネイティブ・アメリカンという「5分類」が一般的です。)

 

アメリカで育ち教育を受けたわけでも、アメリカ史に詳しいわけでもないので、ざっくりになりますが、人種主義はやはりアメリカという国の歴史的成り立ちと関係があるでしょう。

 

北米大陸にはまず、ネイティブ・アメリカン(アメリカ先住民)が住んでいたわけですが、彼らは部族単位の社会で、「国家」といった西洋的概念はなく、ヨーロッパからやってきた「アメリカ人」となる人々の技術や病気、戦略などにより征服されてしまいます。

 

彼らの復権が図られるのは、もっと後、20世紀に入ってからでしょうが、多くのネイティブ・アメリカンがまだ社会的には不利な地位に立たされています。

 

アフリカ系(黒人)は悪名高い奴隷貿易で連れてこられた人たちがいわゆる古株で、南北戦争で奴隷制を覆すまでは、奴隷であり人間以下と公然と見なされていた人たちです。

ただ、家畜同然のように思われ、使われていた人たちから、ある程度まともに扱ってもらっていた人たちまで、「主人」になっていた白人によって様々だったようです。

もちろん、アフリカ系はすべて奴隷の子孫というわけではなく、最近になってアフリカや中南米などから渡ってきた人もいれば、ヨーロッパ方面から来る人もいます。

 

第3のグループ、ラテン系(ヒスパニック)は中南米のスペイン語圏から来た人たちです。

血筋としてはヨーロッパ系も混じっていなくはないのですが、スペイン語を話し文化習慣もアメリカの白人とは違うことが多いです。

人口的には最近とても増えているようです。

 

「アジア系」には日本人も含まれますが、言葉が違うため、全体として「アジア系」と見られることがあっても、実際には中国人、韓国人、ベトナム人・・・等々分かれてコミュニティを形成している印象もありますし、また、主だった移民グループが来た時機も異なっていたりします。例えば日本からは戦前、多くの農民がアメリカに移民しています。

 

「パシフィック系」とは、太平洋島嶼諸国の出身の人たちです。

 

マジョリティである「白人」はヨーロッパ方面から来た移民やその子孫ということになり、政治、経済、教育、医療などのシステムを伝統的に握っています。特権的であるために、彼らの多くはルーツとか移民であるといった自覚はなく、まとまって「白人」としての勢力を保っている傾向もあると思います。例えば「アングロサクソン系」「ドイツ系」「スカンジナビア系」などとばらばらになってしまうより、「白人」である方がいいのです。

(ルーツや文化に関心のある人もいますが、それはどちらかというとインテリっぽい人であることが多いと思います。)

 

さて、アメリカ社会で「マイノリティ」というと実は主に黒人(アフリカ系)を指すことが多いのです。その他のグループもマイノリティ(少数民族)ではあるのですが、例えばアジア系だと

ある程度大人しかったり勉強熱心だったり、またラテン系は言葉や文化こそ違うものの彼らとしてそれなりに生活していたりと、それに比べ白人と黒人は真正面から衝突しやすいように見えます。

 

奴隷解放や公民権運動といった、人権に関わる、歴史的で時間のかかる大きな流れがあり、黒人の権利を保障したり、不平等を改善したりするような試みがいろいろ行われてきましたが、それでも「格差」を解消するのは難しいのです。

 

教育格差、賃金や収入の格差もあります。

奴隷制があった頃や、分離政策があって白人のコミュニティに黒人がまったく進出できなかった頃に比べ、いろいろな機会はありますが、それでもほんの一握りのラッキーで優秀な人たちだけが、白人と同レベルのものを達成するように見えます。

 

そのためかメンタルヘルス問題、アルコールや麻薬の使用、犯罪なども多いのですが、またそうした環境(住む地域や学校など)にいるという背景もあります。

 

「犯罪」に関しては、これも以前から「人種的プロファイリング」などの問題が指摘されてきました。これは、警察などが黒人を見ただけで「(黒人だから)こいつが犯人に違いない」と決めつける・思い込んでしまうことを指します。

 

黒人側から見れば、何もしていないのにその現場にいただけで「犯人扱い」されてしまい、場合によっては今回のように暴力の標的となってしまいます。

 

悪いことをしなくてもいつ悪者扱いをされてしまうのか、ビクビクして暮らさなければならないとしたら大変なストレスです。その上、人並み以上の努力をしたとしても、コネやお金の力などで簡単にチャンスにありつける白人のようには、社会の階層を登っていけないのです。

 

人種的プロファイリングや、警官の行動などは以前からアメリカ社会で問題視されてきていますが、なかなか改善しないまままたこのような事件が起こり、そこにこれまでのコロナがらみで溜まった鬱憤も加わりあちこちで収拾がつかない事態になってしまっているのではないでしょうか。

 

臨床心理、社会心理などそうした人種間・民族間・違う人同士の関係性やコミュニケーションなどを扱ってきた私にとっても、こうした事件は、あちこちで地道に活動をしているふつうの人や専門家などの努力が無にされるようで、やりきれない思いがあります。

かと言って当座、日本にいる限りは何をどう変えるということもないのですが・・・

 

「対岸の火事」と見えるかもしれませんが、日本にも人種や民族の問題はれっきとして存在しています。今現在、コロナのために日本を出入りすることは難しくなっていますが、日本でも移民や難民が増えたり、インバウンドを呼び込んでいたりと人種・民族・文化の違う人と接する機会は確実に増えていきます。日頃から問題意識を持っておきたいものです。