中小企業の海外取引の経済効果試算
メモランダムです。
ブログ『漂流する身体』を時々読んでいますが、
経産省編「日本の産業をめぐる現状と課題について」について論じています。
経産省のこのレポートは、かなり高い評価を得ており、日本の厳しい現状を
極めて正しく表しているといわれています(ただ、それへの解決策となると
舌足らず感がありますが)。
で、それへの論考の中で、参考にすべき記述があったので引用させて頂きます。
トラバができないぞ??う~む、仕方ないので、ブログURLをコピペ。
http://d.hatena.ne.jp/bohemian_style/20100420/p1
<以下引用>
結論の前の裏返しスライド。要は、グローバル製造業もモデル変えて生き残らないといけないし、それに今はぶら下がっている技術のあるものづくり企業もグローバル製造業を中抜きして海外市場に出ないといけないし、国内型産業の中にも海外市場に出れる産業があるということである。
感想だけど、部下がこんなスライド作ってきたら、丸焼きにしたであろうミスリーディングなスライドも散見されたが、役人に顧客にスライドを売るコンサルタントの仕事を期待すべきでは無いし、全般にはメッセージは正しいと思う。要は、
輸出依存度が余り高く無い→日本はまだ実は輸出で稼げる余地がある
輸出型大企業は勝てるビジネスモデルに転換し、中小企業や国内型産業は輸出できる産業に転換し、輸出を創出すべき
ということだ。結局輸出かよ、という声も聞こえてきそうだが、上記過去エントリでも日本の純輸出とGDPの比は僅かに1.7%であり、これが5%を超えるドイツとはまだ随分差があると指摘したし、ミクロで見ても経産省が目を付けている分野には確かに余地はあると思う。
これは、なぜ中小企業や国内型産業に輸出機会が訪れているか、という点で更に深掘りが出来る。前者については、大企業が連敗を喫したモジュール化と水平統合の波が、中小企業にとって直接国内の大企業を中抜きする機会になっていることである。また、グローバルに新興国の成長が続いている結果、何も無い発展途上国に道路とか発電所を作るという従来の「開発経済・国際援助型」インフラ投資一辺倒から、中進国が先進国並みのQOLを得る為の「高度化投資・内需型」インフラ投資に力点が移りつつあることもその背景にある。高速鉄道や上下水道、或いは火力でなくてより複雑な原発など、先進国なら当たり前に持っている内需型産業が、一通り必要なインフラは持っているが、それをシステムごと輸入して高度化した新興国=中進国に魅力的に映っている。
また、何故輸出型大企業がコケたのか、という点への考察ももう少し必要である。これは要は、特定分野毎に規模の利益がより重要になったことを示している。背景には、これも新興国需要の台頭があり、そのマーケットにおいては、垂直統合した高度なプロダクトよりも、水平統合して安く作れた商品が売れた。その結果として、水平統合型エコシステムの企業の製造コストが劇的に下がり、それに参加している企業しか先進国市場においてもコスト的に生き残れなくなったのである。ただ、誤解して欲しくないのは、水平統合だからOKということでは無く、水平統合は規模の利益をどう作るかという手段に過ぎないことだ。日本市場には、過当競争であったことや、グローバル化が遅れていたことなど、規模の利益を作らせない構造があったのが、更に不利に働いた。もし、例えば液晶テレビで日本を独占する巨大企業があったとして、その巨大企業が十分にグローバルに販売網を持っていたとしたら、垂直統合していても、コストで勝負できる筈だからである。
では、この輸出振興は正しいとして、この輸出振興によって、どの程度GDPが底上げされるかというポテンシャルを試算してみたい。中小企業実態基本調査を基に簡単に検証してみるが、まず輸出に対応可能なある程度大きさのメーカーがどの程度あるかと言うと、世の中の中小企業373万社の内、製造業は42万社である。売上高で言えば534兆円の内110兆円なので、全中小企業の中で、20.6%が製造業の売上シェアである。ただ、この中には傘張り浪人みたいなのも、「個人事業主」としてカウントされており、例えば従業員51人以上と、そこそこの売上高の中小製造業の売上を抽出すると、65兆円だ。従業員50人以下の中小製造業の一社当たり売上は僅か1.3億円だが、従業員51人以上の中小製造業の一社当たり売上は28.8億円である。自分自身、ミッドキャップの買収案件を担当した実感として、輸出に対応する為に、海外向け営業マンから英文契約、貿易実務、貿易金融等を担当する社員を養うには、売上50-100億円・社員50人というのがギリギリの規模感だったから、ここで区切ることは大凡外れてはいまい。
どういう政策を打てば彼ら65兆円が輸出に向かうのかは実感が沸かないが、仮に甘く見て、この中の10%の企業が海外向けに全体の30%の売上高を新規に獲得するとしよう。このカテゴリーの中小製造業の原価率は48%だから、52%が付加価値になるので、
65兆×打率10%×売上増30%×付加価値52%=1兆円(!)
がGDP上のインパクトである。日本のGDPは526兆円だから、0.2%。「まるでアリの様だ! (C)ムスカ」とは言わないが、世界が変わる程のものでは無い。世界を変えるには、半分位の中小製造業が、海外向けに売上を倍増位のことにならないとダメである。これは相当大変な事のように僕は思える。小さくてもやった方がいいのは間違いないが、全体にインパクト与えるには相当頑張らないといけないということだ。
こういった規模感の問題もあるが、それをクリアして大規模に輸出を創出すれば長期的にも万事解決かと言うと、そこは疑問で、中長期ストラテジーは別に用意しないといけない。なぜなら、これは製造業の輸出立国というストラテジーそのものが、グローバルにトランザクションコストが低下した現在では、中進国との裁定が働きやすいからである。インフラのシステム輸出にしても、中小製造業にしても、いずれ産業が高度化した中進国が追いついて来るだろう。よって、輸出は、比較的短期の稼ぎにしかならないと思われる。この点は非常に解決策が見いだしにくい所で、米英がこけたことで、先進国群に勝ちパターンの人が居なくなったのが迷いを深くする。米英の金融立国的な戦術は間違いとまでは言えないが、打ち出の小槌では無い事は既に判明している。日独の製造業主導の輸出立国戦略は、上記の通り中進国との裁定が働きやすい。中進国が発展途上国だった時代は、技術に圧倒的な格差が有ったので、先進工業国の製品が世界を席巻したが、途上国が成長して中進国となった現在、先進工業国と中進国それぞれの企業の技術格差も縮まった。縮まったが故に競合が発生して、むしろコストパフォーマンスでは先進国側が見劣りし、これを是正するなら先進国側が労働分配と価格を下げないといけない状況になっている。これが裁定ということである。敗戦国で国土が灰燼に帰した日独は、戦後の50年代後半から80年代までの長い間、戦勝国である先進国に対して、中進国的な立場を維持し、そのコスト競争力を誇った。いま両国が苦しいのは、その有利な立場が新興国に取って代わられ、追われる立場となったから、という単純な構造だと推察する。また、日独の製造業によって、自国製造業をボロボロにされた米英は、金融資本の拡大再生産や、IT等の知識やサービス輸出に活路を見出した。つまり、輸出型製造業というのは、元来中進国的立場の国が有利に戦えるフィールドであって、コストの高い先進国はより資本や知識集約型で無いと厳しいということだ。ただ、金融立国というのが果たして正解なのかは、ある程度までは正しいとしか言えないのが、現在の迷いであるし、日本の打てる手としては、若干手遅れというのが残念である。
ブログ『漂流する身体』を時々読んでいますが、
経産省編「日本の産業をめぐる現状と課題について」について論じています。
経産省のこのレポートは、かなり高い評価を得ており、日本の厳しい現状を
極めて正しく表しているといわれています(ただ、それへの解決策となると
舌足らず感がありますが)。
で、それへの論考の中で、参考にすべき記述があったので引用させて頂きます。
トラバができないぞ??う~む、仕方ないので、ブログURLをコピペ。
http://d.hatena.ne.jp/bohemian_style/20100420/p1
<以下引用>
結論の前の裏返しスライド。要は、グローバル製造業もモデル変えて生き残らないといけないし、それに今はぶら下がっている技術のあるものづくり企業もグローバル製造業を中抜きして海外市場に出ないといけないし、国内型産業の中にも海外市場に出れる産業があるということである。
感想だけど、部下がこんなスライド作ってきたら、丸焼きにしたであろうミスリーディングなスライドも散見されたが、役人に顧客にスライドを売るコンサルタントの仕事を期待すべきでは無いし、全般にはメッセージは正しいと思う。要は、
輸出依存度が余り高く無い→日本はまだ実は輸出で稼げる余地がある
輸出型大企業は勝てるビジネスモデルに転換し、中小企業や国内型産業は輸出できる産業に転換し、輸出を創出すべき
ということだ。結局輸出かよ、という声も聞こえてきそうだが、上記過去エントリでも日本の純輸出とGDPの比は僅かに1.7%であり、これが5%を超えるドイツとはまだ随分差があると指摘したし、ミクロで見ても経産省が目を付けている分野には確かに余地はあると思う。
これは、なぜ中小企業や国内型産業に輸出機会が訪れているか、という点で更に深掘りが出来る。前者については、大企業が連敗を喫したモジュール化と水平統合の波が、中小企業にとって直接国内の大企業を中抜きする機会になっていることである。また、グローバルに新興国の成長が続いている結果、何も無い発展途上国に道路とか発電所を作るという従来の「開発経済・国際援助型」インフラ投資一辺倒から、中進国が先進国並みのQOLを得る為の「高度化投資・内需型」インフラ投資に力点が移りつつあることもその背景にある。高速鉄道や上下水道、或いは火力でなくてより複雑な原発など、先進国なら当たり前に持っている内需型産業が、一通り必要なインフラは持っているが、それをシステムごと輸入して高度化した新興国=中進国に魅力的に映っている。
また、何故輸出型大企業がコケたのか、という点への考察ももう少し必要である。これは要は、特定分野毎に規模の利益がより重要になったことを示している。背景には、これも新興国需要の台頭があり、そのマーケットにおいては、垂直統合した高度なプロダクトよりも、水平統合して安く作れた商品が売れた。その結果として、水平統合型エコシステムの企業の製造コストが劇的に下がり、それに参加している企業しか先進国市場においてもコスト的に生き残れなくなったのである。ただ、誤解して欲しくないのは、水平統合だからOKということでは無く、水平統合は規模の利益をどう作るかという手段に過ぎないことだ。日本市場には、過当競争であったことや、グローバル化が遅れていたことなど、規模の利益を作らせない構造があったのが、更に不利に働いた。もし、例えば液晶テレビで日本を独占する巨大企業があったとして、その巨大企業が十分にグローバルに販売網を持っていたとしたら、垂直統合していても、コストで勝負できる筈だからである。
では、この輸出振興は正しいとして、この輸出振興によって、どの程度GDPが底上げされるかというポテンシャルを試算してみたい。中小企業実態基本調査を基に簡単に検証してみるが、まず輸出に対応可能なある程度大きさのメーカーがどの程度あるかと言うと、世の中の中小企業373万社の内、製造業は42万社である。売上高で言えば534兆円の内110兆円なので、全中小企業の中で、20.6%が製造業の売上シェアである。ただ、この中には傘張り浪人みたいなのも、「個人事業主」としてカウントされており、例えば従業員51人以上と、そこそこの売上高の中小製造業の売上を抽出すると、65兆円だ。従業員50人以下の中小製造業の一社当たり売上は僅か1.3億円だが、従業員51人以上の中小製造業の一社当たり売上は28.8億円である。自分自身、ミッドキャップの買収案件を担当した実感として、輸出に対応する為に、海外向け営業マンから英文契約、貿易実務、貿易金融等を担当する社員を養うには、売上50-100億円・社員50人というのがギリギリの規模感だったから、ここで区切ることは大凡外れてはいまい。
どういう政策を打てば彼ら65兆円が輸出に向かうのかは実感が沸かないが、仮に甘く見て、この中の10%の企業が海外向けに全体の30%の売上高を新規に獲得するとしよう。このカテゴリーの中小製造業の原価率は48%だから、52%が付加価値になるので、
65兆×打率10%×売上増30%×付加価値52%=1兆円(!)
がGDP上のインパクトである。日本のGDPは526兆円だから、0.2%。「まるでアリの様だ! (C)ムスカ」とは言わないが、世界が変わる程のものでは無い。世界を変えるには、半分位の中小製造業が、海外向けに売上を倍増位のことにならないとダメである。これは相当大変な事のように僕は思える。小さくてもやった方がいいのは間違いないが、全体にインパクト与えるには相当頑張らないといけないということだ。
こういった規模感の問題もあるが、それをクリアして大規模に輸出を創出すれば長期的にも万事解決かと言うと、そこは疑問で、中長期ストラテジーは別に用意しないといけない。なぜなら、これは製造業の輸出立国というストラテジーそのものが、グローバルにトランザクションコストが低下した現在では、中進国との裁定が働きやすいからである。インフラのシステム輸出にしても、中小製造業にしても、いずれ産業が高度化した中進国が追いついて来るだろう。よって、輸出は、比較的短期の稼ぎにしかならないと思われる。この点は非常に解決策が見いだしにくい所で、米英がこけたことで、先進国群に勝ちパターンの人が居なくなったのが迷いを深くする。米英の金融立国的な戦術は間違いとまでは言えないが、打ち出の小槌では無い事は既に判明している。日独の製造業主導の輸出立国戦略は、上記の通り中進国との裁定が働きやすい。中進国が発展途上国だった時代は、技術に圧倒的な格差が有ったので、先進工業国の製品が世界を席巻したが、途上国が成長して中進国となった現在、先進工業国と中進国それぞれの企業の技術格差も縮まった。縮まったが故に競合が発生して、むしろコストパフォーマンスでは先進国側が見劣りし、これを是正するなら先進国側が労働分配と価格を下げないといけない状況になっている。これが裁定ということである。敗戦国で国土が灰燼に帰した日独は、戦後の50年代後半から80年代までの長い間、戦勝国である先進国に対して、中進国的な立場を維持し、そのコスト競争力を誇った。いま両国が苦しいのは、その有利な立場が新興国に取って代わられ、追われる立場となったから、という単純な構造だと推察する。また、日独の製造業によって、自国製造業をボロボロにされた米英は、金融資本の拡大再生産や、IT等の知識やサービス輸出に活路を見出した。つまり、輸出型製造業というのは、元来中進国的立場の国が有利に戦えるフィールドであって、コストの高い先進国はより資本や知識集約型で無いと厳しいということだ。ただ、金融立国というのが果たして正解なのかは、ある程度までは正しいとしか言えないのが、現在の迷いであるし、日本の打てる手としては、若干手遅れというのが残念である。