私がモスクワ大学に留学したのは2000年、大学3年生の時でした。
大学ではロシア政治学の第一人者である日本人教授と、ソビエト連邦時代にゴルバチョフ書記長のブレーンであったロシア人客員教授に師事し、ロシア政治の世界にゴリゴリに入り込んでいた学生時代。
ソビエト崩壊の混乱から10年経過しておらず、ロシア連邦初代大統領であるエリツィンからプーチンにバトンが渡されたその節目に、ポスト冷戦時代のロシアへの留学が叶ったことは、私の人生の中で間違えなく一番センセーショナルな出来事でした。
(※留学はロシア政治学を学ぶためではなく、ロシア語習得のための語学留学です)
しかしながら一介の主婦として安穏と過ごしている今になって振り返ると、その過去はあまりにも遠く、幻の様にも思えるのです。
私の両親がロシアという国と国際情勢に関して無知だったからこそ、混沌とした情勢の続く国への留学をあっさり許可してくれて、お金を出してくれたのだと思います。
外国語学部に進学していた姉が既に2度の留学を経験していたので、次女の私にも許可しないわけにはいかず、それがどこの国かは重要ではなく。
私自身、座学で学んでいた舞台をこの目で確かめてみたいとの漠然とした想いからの留学であり、将来に繋がる夢へのステップと考えていた訳でもありません。
そして留学中、異民族による爆破テロで、いつも使っていた地下鉄で無残な死体痕を見てしまったり。政府に抗議する市民が背後から突如鎮静剤を打たれる姿が公開処刑の如く、ニュースで生々しく報道されるのを見たり。
それらは日本にいては到底考えられない環境であり、その国の特異体質を体験的に理解する上で、十分すぎるほどの経験でありました。
もともとの留学動機が軽かっただけに、語学留学だけである程度の満足を得られた結果、更にロシア語でロシア政治を学んでいこうという熱意が生じることもなく。
私のロシアとの関わりは大学卒業とともに終わるに至ります。。。
卒業後は、昔から憧れていた海外営業職を目指して就職。
ロシア留学経験は就職活動の面接でこそ役立ったものの、慣例から外れることのない大企業では「若い女性を単身で駐在させられる地域ではない」という暗黙の方針で、ロシアとアラブ圏担当になることはなく、中国を中心とした北東アジア各国を担当することに。
正直なところ、2000年代の中国は急激な経済成長を続け発展めざましく、日本のバブル期顔負けの華やかな市場。
やりがいも十分感じられていたので、敢えてロシア留学経験を活かしたいとは微塵も思いませんでした…
(勤務先がオリンピックの最上位パートナーだったので、2008年の夏季北京オリンピックは私の社会人人生で一番の大イベントであり、大企業のかさを着て貴重な経験を沢山させてもらったのは、本当に良い思い出。)
・・・と、自分語りに逸れてしまいましたが、閑話休題。
今現在、プーチンがクレムリンから撒き散らしているウィルスで、国際社会に激震が走っています。
ロシア軍によるウクライナへの全面侵攻が開始し、一般市民の犠牲も避けられない非常事態に発展してしまいました。
私の留学した年に、プーチンが第2代大統領に就任したのですが、途中メドベージェフ大統領を挟んで再度就任し、今なお彼が頂点に立って強権政治を続けている姿を見ると、私の人生はこれだけ変化してているのに…と、驚愕せずにはいられません。
KGB出身であるプーチンが、ソビエト時代から抱き続けてきたであろう権力への執着と、大国のプライド。
それゆえに、冷戦終結後も世界がアメリカ一強時代に傾くことなく、ロシアが資本主義のもとで復活を遂げた今、もはや各国による経済制裁だけでは侵攻を止めることは不可能だろうと、個人的には考えるのです。
各国による経済制裁は、日本も含め「自国の利益を考えた上での判断」であり、そこにはウクライナを支援する以前に、守らざるを得ない一線が生じているからです。
だからと言って、ロシアが核保有国である以上、欧米諸国が軍事力で対抗できるとも思えない。
大学卒業とともににあっけなく離れてしまった、ロシアもとい国際政治の世界。
しかし、国際的に政治と経済が深く結びつきあっている現代において、ここ数日の金価格の上昇、ガソリン価格の高騰、日経平均株価の下落を見るに、国際情勢とは常に生活に結びつき、常に把握するべき教養なのだと痛感するのです。
何より、核を持たずに誰にも助けて貰えないウクライナの状況は、周辺を赤色大国に囲まれている未来の日本に思えてなりません。
遠い国の出来事に見えて、実は日本が置かれた状況であり、大国の軍事力を前に、同盟や口約束が形骸化してしまう事実と向き合うべきでしょうね。
そしてまた、留学中にハマって購入していた古いチェスボードを娘が見つけ、今年に入ってから毎晩、娘と対戦するようになりました。
それを機に、ロシアに留学していたことや大学で学んでいた内容を初めて娘に話し、情勢を伝えるTV報道に解説を付けたり、冬季北京オリンピックの競技を観戦しながら、社会人時代にどんな仕事をしていたのかを話をすると、娘が興味を持ってくれるのがすごく嬉しくて。
娘の存在が、忘れ掛けていた自分の過去を掘り返し、肯定してくれていることに気づくのです。
だからこそ今、地球上で何が起こり、その何が問題なのかを娘に分かりやすく伝え、娘にとっても他人事ではないと感じて貰いたい。
小さくとも自分なりの使命感を以て、この先の国際情勢に注視し続けていきたいと思います。