こんにちは.榎本慧太です.
4月も終わろうとしているのに寒暖の差が激しく,体調管理が大変ですね.みなさんお元気でしょうか?
今日で移植から183日ですが,幸い私は元気に過ごせています.
退院時のことを考えると体調も安定しはじめ,通院の間隔も当初は2週間毎であったのが4週間になりました.
これもみなさんのおかげです.引き続き規則正しい生活を続け,復帰を見据えて療養していきます!!
さて,先週よりいくつもの本に目を通しましたが,残念ながら最近ブログに書くほど感銘を受けるものに出合うことがなかったのでブログを書こうかどうか考えていたところ,WIREDの記事に興味深いものをみつけました.
Atoms are the new bits―the new industrial revolution (By Chris Anderson)
『ロングテール』,『フリー』の著者Chris Andersonの記事です.
読後,リハビリのワークアウト中にあれこれ考えたことを少し書きたいと思います.
紙媒体はこれのようです(残念ながら現在はunavailableでした).
『Wired [US] February 2010』 ¥479
※ちなみに翻訳記事が,今月号の『GQ JAPAN』に掲載されていました.
『GQ JAPAN NO.84』 ¥580
1.記事の要旨 この記事の要旨を簡潔に表現するならば,
「個人単位でモノの生産手段に低コストでアクセスすることが可能になっていること,また世界のサプライチェーンがスケールフリーになりつつあることによって,全てのガレージがマイクロ工場に,全ての人がマイクロアントレプレナーになる可能性がある.アイデアを実現化してビジネスにすることが,ビット(デジタル情報)だけでなくアトム(モノ)でも容易になってきている.『こんな製品・サービスがあれば良いのに』と思ったならば,すこしの勉強でそれを自分で創り出せる時代がやってきた」
といったところでしょうか.
本文ではクラウドソーシングで作られたクルマ「ラリーファイター」を作る
ローカル・モーターズ社 の事例や,レゴ版の武器を作る
ブリックアームズ社 など,多くの事例が取り上げられ,現在は製品・サービス開発のインフラコストが劇的に小さくなり,製品・サービスのアイデアを現実化するハードルはますます低くなってきていることを説明しています.
今はWebサービスを開発しようと思ったら,PaaSとして
Google App Engine など,開発環境そのものを無料で利用できます.また開発したWebサービスの需要が増大してアクセスが急増した場合,少し前ならサーバーの設備投資がネックとなりやむなくアクセス制限をかけたのが,クラウド化の盛んな今では
Amazon EC2 で必要な時間に必要な容量だけサーバを利用できます.
本記事ではこのようなビット(デジタル情報)の世界での潮流が,製品(モノ)の開発・製造においても起きていると説明しています.高価なCADがなくても
Google SketchUp などのフリーソフトで3Dモデルを作成し,高度な製造設備を安価に借りてDIYするか,製造を受注してくれる業者を世界中の製造業者から探してオーダすることで,企業よりも格段に短いスパンでモックアップを手にすることが可能だと述べています.
数年前まではイニシャルコストがネックとなっていた製造業における起業のハードルも,今ではどんどん下がっているのだから,欲しいものは自分で作ってしまい,需要があるのであればビジネスにしよう,というのが記事の提案です.
以下のような夢を現実化する5つのステップというのも紹介していました,
(1)発案 アイデアがひらめいたら,自分のオリジナルなものか特許庁のウェブサイトで確認する.
(2)デザイン Google SketchUpなどの無料ツールで3Dモデルをつくる,もしくは既存の誰かのデザインに自分のアイデアでひねりを加える.
(3)試作 安価な3Dプリンタなどでプロトタイプをつくってチェックする.
(4)製造 少量つくるならガレージでもよし,大量生産ならアウトソースする.アリババ・ドットコムのようなサイトは中国など新興国の良いパートナーを探すのに役立つ.
(5)販売 オンラインストアを通じて顧客に直接販売するもよし,ヤフーや支付宝(アリペイ)のようなECサービスを利用するもよし.
これが定着すれば,後世には「DIY産業革命」と言われようになるだろうと結論づけて記事は終了しています.
2.生産消費者,C2B この記事ですが,考えてみればそれほど目新しい論考ではないように感じます.私は「DIY産業革命」というワードをみて,『第3の波』の著者アルビン・トフラーが「生産消費者」と呼んだ概念を思い起こしました.
『富の未来』 (A. トフラー) ¥1,995
生産消費者の概念自体は『第3の波』で初めて用いられましたが,『富の未来』の方がより分かりやすく,紙幅を割いて説明されているので参考にするならこちらの方が良いと思います.
トフラーは販売や交換のためではなく,自分で使うためか満足を得るために財やサービスを作り出す人を「生産消費者」と呼びました.但し生産消費は個人の活動とは限らず,仲間と共有するときもあります.またその「仲間」の意味は情報をはじめとした技術の発展によって拡大したと述べるとともに,誰でも生産消費活動に時間を使っていると言っています.
こうして私が足りないアタマを使って思案したことをブログに書いているのは,生産消費活動の一例でしょう.
これは表面的には貨幣経済に価値をもたらさない活動のように思えますが,実際には影響を与える可能性があります.私が張ったリンクをたどってアマゾンで本を買った人がいるならば,私の生産消費は貨幣価値を生んだことになるからです.
トフラーは数字には表れないがものの,このように貨幣経済は生産消費に大きく依存していると主張しています.
DIYは生産消費活動の一例です.自分が欲しいもの自分でつくる.
日曜大工でも,庭の木を切り倒さずにホームセンターで資材を購入すればそれは貨幣経済にカウントされます.
生産消費のバリューチェーンを一部でもアウトソースすれば,それは新たな経済効果を生むのです.
個人々々では小さいかもしれませんが,誰もが生産消費活動をしているのであれば,その効果も集積すれば無視できないほど大きなものになるでしょう.
また記事では,世界最大のB2Bサイトである
アリババ・ドットコム についても紹介されています.
アリババ・グループの会長ジャック・マー(馬雲)氏は,個人がサプライチェーンの上流を担い,製造を業者に発注することを"C to B"と呼びます.クリス・アンダーソンは記事でこれは新しい取引方法であると言っていますが,マー氏はアリババの黎明期からすでにこの青写真を描いていたのではないでしょうか.
『馬雲のアリババと中国の知恵』(鄭作時) ¥2,310
「eコマースの場合、本来B2BとC2Cのあいだに明確な境界線はどこにもなく、個人間の大口取引と企業間の取引は必ずしも線引きできるわけではないというのが我々の考え方であった」 (『馬雲のアリババと中国の知恵』P.288より引用)
という記述から,そのことが窺えます.C2B取引の増加は高い利益率が見込める特注品を受注できるため,アリババの会員企業にとっても望ましいことだといえます.
企業と個人の境界が曖昧になる,つまりC≒Bとなり,B2C,B2B,C2Cに加えてC2Bも本格化してきており,プラットフォームとしてのアリババの求心力も更に増してくることだろうと思います.
生産消費者,C2B.この2つのワードに共通する背景とは,個人が生産手段(資本)に容易にアクセスできるようになって,個人の企業の境界が曖昧になり,消費者の生産者化が進み,彼らの活動が経済において看過できないほど大きく,影響力をもつようになり,かつそれが認知されてきているということでしょう.
イノベーションを起こすような斬新なアイデアを持つ者にとって,今の時代ほどわくわくするものはないと思います.
やる気があれば,アイデアを容易に実現できるのですから.
3.プロデューサーの存在価値 しかしながら,アイデアを持っている人間が必ずしも経営のリテラシを持つわけではないことは自明でしょう.
また,ここまで起業のハードルが下がってもなお,優れたアイデアの具現化を躊躇する人がいるでしょう.
加えて,イノベーションを起こし得るような非常に優れたアイデアが個人の趣味の範囲でとどまることは,社会にとって損失(もったいないこと)であるともいえます.
起業のハードルが下がれば下がるほど,良いアイデアを社会に広めることでイノベーションをもたらすには,アイデアを見つけ出し,ビジネスとして機能させることのできる触媒のような役割の重要性が高まってくると考えられます.
『GQ JAPAN』の翻訳記事に『フリー』の監訳をつとめた小林弘人氏の解説が載っていましたが,そこには次のようなコメントがありました.
「…参入するには,斬新なアイディア,ネットのセオリー,そして資本政策を含めた経営ノウハウが必要です.この3つの要件をマルチタスクのCPUのように稼働できる人にしてみれば,今の時代は面白くてしょうがないはずです.」 (『GQ JAPAN NO.84』P.101より引用)
斬新なアイデア・技術をうまくマネタイズし,その資金を用いてさらに多くの人に価値を提供する.
この仕組みを考え,機能させるのが「(ビジネス)プロデューサー」の役割でしょう.
トフラーや馬雲,アンダーソンのいう世界が実現すれば,ビジネスプロデューサーというものの重要性はさらに増すのだろうと思います.
と,ここまで考えたときに,以前読んだ本に書いてあったことを思い出しました.以下,少し引用します.
『経営思考の「補助線」』(御立 尚資) ¥1,680
「アイデア(あるいは事業のタネ)を考えつく創造性あふれる人々は,その創造性ゆえに,ビジネスとしての組み立てを考えるうえで,非現実的な解に固執しがちである.随分前の話だが,ボストン・コンサルティング・グループで,いわゆるクリエーターと呼ばれる人々がスペシャリストとして活躍し,大ヒットを生みだしている分野を調査したことがある.その際に明らかになったのは,大成功したビジネスの陰には,必ずといっていいほど,「極端に創造的な人」を生かすプロデューサーが存在したことだ」 (『経営思考の「補助線」』P.264-265より引用)
「『アイデア』をビジネスレベルに持ち上げるために,執念を持って,クリエーター役を引っ張り,市場での成功に必要な資金調達をはじめ,外部との交渉・調整を引き受け,そして何より「最終的には,自分が結果に責任を取る」というリーダー,すなわちプロデューサー役が必要となる」(同著P.265より引用)
まさにオープンアソシエイツのような集団の重要性を指摘しているのではないでしょうか.
アイデア実現化に際し,そのアイデアのブラッシュアップを手助けし,状況に応じてバリューチェーンをアレンジし最適化すると同時に,継続的に価値提供が可能なビジネスモデルを構築・機能させる.
そのような能力を持つ人間のニーズは,増えることはあってもなくなることはないはずです.
4.まとめ ニッチなビジネスがどんどん生みだされるようになれば,新たに大規模な総合メーカーというものが生まれる余地はほとんどなくなるでしょう.その点で,莫大な金銭的富を得るチャンスはほとんどないかもしれませんが,
いわゆる「小金持ち」になる機会はあらゆる所にあると思います.新たなパナソニックやソニー,ホンダが生まれる可能性は更に小さくなるが,松下幸之助や井深大,本田宗一郎を思い起こさせるような人間がどんどん輩出される環境は整ってきているかと思います.
今回いろいろ考えて私が思ったのは,「好きなこと・興味を持ったことは徹底して深めるべき」ということです.
アイデアは物事を徹底的に考えてこそ浮かんでくるものだと思うからです.「好きこそものの上手なれ」ですね.
相変わらずまとまりのない文章になってしまいましたが,
イノベーションの触媒として,経済を縁の下から,根底から支えるのだ,という使命感をもっていきたいですね.
それではまた来週!!