◇大学時代には様々なアルバイトをした。家の近くにあったコカコーラの販売所のトラックに乗り、地下鉄の駅の売店や商店などに瓶の入った重いケースを運んだ。とても重労働だったがアルバイト代が良かったし、夜遅くなると焼きそばなどが出されたのもうれしかった。友だちの紹介でリサーチの会社でもやった。夜中の交通量調査、飛び込みで家を訪問してアンケートに答えてもらう調査などもあった。京都で独り住まいしていた時にはデパートの地下にあったサンドウィッチ専門店でも働いた。ある朝出勤するとベテラン社員のHさんが「朝ご飯は食べてきたか?」と尋ねてくれたので「まだです」と言うとハムトーストをわざわざ作って、食べさせてくれたのをよく覚えている。サンドウィッチといえばトーストしていない食パンに挟むものと思っていたが、こんがり焼いたトーストにハムを挟んだものはとても美味しかった。今でもハムトーストは好物でよく食べるが、時々Hさんの事を有難く思い出す。

それらのアルバイトで稼いだお金でいろんな物を買ったが、一番印象に残っているのはソニーのオープンリールテープデッキ。大学の生協に陳列されていたのを見て、ほしいと思った。デザインも使い勝手も良く、長年使っていたが、カセットテープ、CD、MDなどの便利な物が出て、段々使わなくなった。それでも捨てられずに部屋に置いていたが、アンプとパソコンをつないだので不要になったCDプレイヤー、チューナーと共に業者に引き取ってもらうことにした。とても愛着があったので最期に絵にしたが、巧く描けなかった。

◇絵を描き始めた頃、水彩画の本を買ったら、ニコライ堂の絵があって「こんな絵を描けたら・・・」と思ったのをよく覚えている。それからすぐの春休みに東京へ一泊旅行した。ホテルは憧れの山の上ホテル。チェックインしてすぐ神田の「まつや」へ。その頃、池波正太郎の本をよく読んでいて、池波が通っている店に行ってみたかったのだ。満員の店で本場の蕎麦を味わってからニコライ堂をスケッチ。

3月末だったので夕方になると寒くなりホテルに引きあげた。部屋に入ってすぐにノックが・・・。頼んでもいないのに女性スタッフがやけどしそうな熱いほうじ茶を持って来てくれた。その熱さとサービスに「さすが池波正太郎が贔屓にするホテルだけのことはある」と感心した。そういう思い出のあるニコライ堂を描いた。

 

◇TVドラマはあまり観ないのだが、NHKではいいドラマが続いていると思っている。少し前に放映された定時制高校の科学部を舞台にした「宙わたる教室」、発達障害の裁判官を松山ケンイチが巧みに演じた「テミスの不確かな法廷」、そして最近やっていた「魯山人のかまど」。同じ食いしん坊として尊敬している魯山人のドラマだから見逃せないと思って観たら、とても良かった。魯山人役の藤竜也の演技、特に黙っている時の表情が素晴らしかった。吉田茂役の柄本明の鮎を丸かじりするシーンも見事だった。ドラマの中で魯山人が発する言葉も秀逸だった。野菜を「うまく切れません」というヨネ子に「うまく切らなくていい、丁寧にやりなさい」。「揃わないです」というヨネ子の言葉には「畑の中の野菜は揃ってないだろう、揃わなくていい」と。

私の好きな魯山人の言葉は「おいしいものを食べるのではない、おいしく食べるのだ」。