ハルメク12月号の〔リレー連載〕が目に留まった。ウイルスは遺伝情報をやり取りするという中村桂子さんの文章だ。

 

 まず前段。

 ウイルスとは何者なのかの説明が分かりやすい。

≪ウイルスは生物ではありません。生物は遺伝子が入った細胞からなり、自分の力で増殖しています。ウイルスは細胞の中に入っている遺伝子そのものが殻を破って動いているのです。増殖するには、生物の細胞の中に入り込まなければなりません≫

 なるほど、細菌は栄養があればシャーレの中で増殖する。一方、ウイルスは人などの細胞内に入り込んで増える。宿主である人間が死ねば、ウイルスも死滅する。

≪遺伝子と聞くと、生き物の体内でじっとしているイメージをお持ちではないでしょうか。人間の遺伝子とか、私の遺伝子といって、生きものとは違うものだと思っていませんか。そうではありません。遺伝子は生きものたちの間を動いています。そしてウイルスは遺伝子を運ぶ役割をしています≫

 我々は、学校で、遺伝子は親から子へ、子から孫へと時間軸(縦方向)で伝えられることを学んだ。ウイルスは、種を超えて空間軸(横方向)の遺伝情報を交換し合う媒介となっているのである。

 

 いよいよ本論。 

≪ウイルスは、いろいろな生物たちの中に入ってあちこち動きながら、その生物に悪さもしますが、新しい性質を与えることもあるのです。例えば私達哺乳類には胎盤がありますでしょう。哺乳類は約一億五千万年前に生まれたのですが、ある遺伝子を持っていたウイルスが哺乳類の体内に入り込んで、胎盤作りの遺伝子になったのです。赤ちゃんがお母さんの体の中で血液や栄養分のやり取りができるようになったのは、ウイルスのおかげなのです

 ウイルスは、生物の進化に一役買っているというのだ。

ウイルスは、もともと体の細胞の中にある遺伝子が飛び出して、長い旅に出かける。旅の途中に、人間と人間、人間と他の生物との間を行き来して情報を交換しあい、またもとの古巣に戻ってきた後、遺伝子の書き換えをする。

 感染した人は進化する? もっと詳しく知りたい部分である。

 

 これも大切か。

 ウイルスとの付き合い方。

「このように生物とウイルスは長い間いろいろな関わりを持ってきました。コロナウイルスはコウモリの中で落ち着いていたのですが、たまたま出てきてしまった。エイズやエボラも、人間がアフリカの森を壊して入り込んでいったのが人間に感染するようになった原因の一つです。それまでは局所的に存在していたウイルスを人間が引っ張りだしてしまったともいえるでしょう。人間が勝手なことをし過ぎると、ウイルスも暴れることになるのは確かです

 

「ウイルスを封じ込める」「ウイルスに打ち勝つ」などは、報道番組でよく聞く言葉だ。

 自然を征服するとか、コントロールするとか、背後にそういう考え方が隠れている。

 人間も全ての生きもの同様に自然界の一部だ。

 ウイルスというものは、なくすことはできない。