6月28日、「立憲主義」をテーマに、学習会を開きました。

 

1 早稲田に90億円  

 

平成28年度、早稲田大学に、約90億円の私学助成金が交付されました。

東海大約89億円、慶応義塾大約87億円。 トップ3です。

 

「私学への助成金は違憲か合憲か」 

 

次の資料から、どう判断されますか。

◆資料1〔日本国憲法 第89条〕 

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

89条は、「私立学校への公金の支出を禁止」しています。

 

 一方、文科省は、私学助成金の必要性を次のように述べています。

◆資料2〔文部科学省HP〕我が国の学校教育のなかで私立学校は学校数、学生・生徒等の数共に全体の大半を占めるなど大きな役割を果たしており、私学の振興を図ることは学校教育の発展を図る上で重要であるので、国は法令に基づき私学助成を行っています。

 

私学助成金は、立憲主義に反しているのでしょうか。

 

「自衛隊は違憲か合憲か」

資料1〔日本国憲法第9条〕

1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法では、日本は戦争を放棄し、戦力を持たず、交戦権はないと言っています。

その一方で、我が国には自衛隊法に基づき、自衛隊が存在します。

憲法条文に従えば、自衛隊は違憲です。しかし、今や多くの国民の支持を得て存在しています。

 

自衛隊は、立憲主義に反しているのでしょうか。

 

2 憲法とは“國体”のこと 

 

立憲主義の政治とは、「憲法に基づいて行う政治のこと」です。

憲法があることが前提です。

日本には日本国憲法、アメリカにはアメリカ合衆国憲法があります。

ところが、「イギリスには憲法がない」と言われます。

では、イギリスに立憲主義はないのでしょうか。

実は、イギリスは立憲主義の母国と言われます。

 

いったい、憲法とは何なのでしょうか。

 

Constitution(コンスティテューション)を、日本では“憲法”と訳します。

しかし、“憲法”だけではなく、構成、組織、構造、体質、体格、気質、性質、政体という使い方もあります。

医師は、“体質”という意味でよく使うそうです。

一人ひとりに、人柄・体質・歴史があります。

同じように、各国にも国柄・歴史・文化・伝統があります。国柄のない国はありませんね。

この「国柄・歴史・文化・伝統等」を全部ひっくるめて、Constitution (憲法)といいます。

これを、帝国憲法の用語では「國体」と言いました。

わが国の場合は、Constitutionは、“憲法”というより、“國体”とした方がニュアンス的に近いようです。

そして、私たちが“憲法”と呼んでいるものは、“Constitution Code(=憲法典)”のことです。

 

A Constitution  (憲法・國体) ⇒ 国柄・歴史・文化・伝統       

B Constitution Code(憲法典) ⇒ 日本国憲法 合衆国憲法 

 

憲法典というのは、憲法(國体)の一部分を国家運営のために文章にしたもの。

憲法は海に浮かぶ“氷山全体”で、憲法典は海面に出ている“氷山の一角”のことといえば、分かりやすいかもしれません。

憲法を本来の意味で考えるならば、こうなります。

「イギリスは、憲法はあるが憲法典はない」

 

3 「ライオンを映画館に連れて入ってはいけない」

 

世界には、(ア)建国するにあたり憲法典を作った国と、(イ)長い歴史を経たのちに憲法典を作った国があります。

 

コモン・センスは「常識」という意味です。

アメリカは、世界中から移民が集まって作られた国です。

建国にあたり、「コモン・センス」というパンフレットが必要でした。

「ライオンを映画館につれて入ってはいけない」

『言わなくても分かるだろう』『書いてなくても判断できるだろう』とはなりません。

「常識」が全ての人に通用しない。

必要なことは、何でもかんでも憲法典や法律に書き込まなければならない。

条文に合っているか間違っているか、つまり

「違憲か合憲か」の判断しかありません。

書いてある通りの国です。

 

一方、イギリスはそもそも“憲法典”がありませんから「合憲か違憲か」にはなりません。

先例を重んじる国です。“國体(国柄・歴史・文化・伝統など)”に照らして

「立憲か非立憲か」の判断をします。

立憲主義の母国です。

 

では、日本はどちらでしょうか。

 

4 男子の化粧を認める?

以下は、倉山満氏の著書『右も左も誤解だらけの立憲主義』にある“たとえ”です。

ある私立高校の校則です。

「 第〇状 本校女子生徒の化粧を禁止する 」

さて、この学校の男子生徒が化粧をして登校しました。

担任の先生は注意し、言うことを聞かなければ処分する、と通告しました。

 

ところが、この化粧男子が

「校則は男子の化粧を禁止していない。処分は不当だ」

と争いました。あなたなら、化粧男子の主張を認めますか。 

①認める ② 認めない

 

英・仏・独・米の、(あくまでも)予測です。

イギリス「女子に認めていないものを男子に認めるはずがない。常識で考えろ」 ②

フランス「わが校の伝統は、男子の化粧など認めていない」 ②

ドイツ 「共学である本校で、わざわざ“女子生徒の”と断っているということは、男子生徒は禁止の対象ではない。“化粧男子”の処分は不当である。よって無罪放免」①

アメリカ ドイツとほぼ同じ。おかしければ条文を変える国。①

 

5 立憲主義とは憲法に基づく政治 

先ほどの「私学助成金」は、憲法典条文で判断すれば違憲です。

では憲法(國体)から見れば、どうなるでしょう。

 

わが国は、江戸時代には寺子屋がありました。当時、日本の識字率が世界最高水準にあったのは寺子屋のおかげです。この寺子屋は全くの私的教育施設です。幕末には吉田松陰の松下村塾があり、明治維新に果たした役割は多くの人の知るところです。また、緒方洪庵の適塾があり、明治になると福沢諭吉が慶応義塾を設立しました。

その私学に公金を支出することは、我が国の國体の精神にかない、多くの国民の合意があるとみていいでしょう。

文科省HPにある「私学の振興を図ることは学校教育の発展を図る上で重要である」の通りです。

立憲主義です。

 

多くの憲法学者は、憲法典から判断し、自衛隊を違憲としています。

しかし、自衛隊は多くの国民の支持を得て存在しています。外国から攻められたとき、国民を守ってくれるのは自衛隊だと知っているからです。

憲法典がたとえ交戦権を否定しても、反撃して国民を守ることの方が大切です。当然のことです。

これは憲法(國体)の精神に合致します。

立憲主義です。

 

立憲主義とは、「憲法」に基づいて行う政治であって、「憲法典」に基づいて行う政治ではありません。