隣りに

お琴の先生が住んでおられた。

 

 

お稽古のないときは、

女傑たちのたまり場になっていた。

 

料亭の女将さん、水産会社の社長の奥さん、侠客の親分の女将さん、

そして、私の母との5人が、

お琴の先生を囲んで、お茶を飲みながら、

よもやま話をするのだ。

 

 

時々、私にもお呼びがかかった。

 

私はおいしい茶菓子にひかれて

嫌がらずに出掛けた。

 

最初は、私が小学校の4年生くらいだったと思う。

 

誰かが、
「この名前の人はどんな人かわかる?」

と、名前を書いた紙を私に見せる。

 

私は、姓名判断で、

「この人は、えらい社長さんで、見掛けは頭が薄い。大入道みたいだ」
などと答える。
皆は、手を叩いて
「その通りよ。当たった」
と、喜ぶのである。

 


そのうち、私は、岩波文庫の易経を手に入れて、

易占も始めた。

 

 

当時の岩波文庫の易経は、上下に分かれてなくて、

書き下し文だけなので、

小学生にとってはひどく難解であった。

 

理解できないながら、

筮竹を操作して何とか占ってあげたら、よく的中する。

 

そのうち、近所の時計屋さんから、
「お客さんから預かっていた時計をなくして困っている。探してほしい」
などという依頼も来るようになり、お小遣いもいただけうようになった。

 

 

女傑たちの息子さんやお嬢さんの縁談も、

よく占ってあげた。

 

後になって、侠客の女将さんのお嬢さんと私の家内は

小中高と同級生だったことがわかった。

 

「手相も見てあげたことがあるよ」、と言ったら、
「ふうん、そうなの」、と軽くいなされてしまった。

 

 

先日、その人から連絡があって、家内が出かけて行って、

「楽しかった」、と言っていた。

どこかで、縁はつながるのかも知れない。

 

<今の運勢>

「既済」。1つ仕事は片付いた。一応終わりにして次のことに取り掛かるとよい。