八幡浜に

お琴の先生が住んでおられた。

琴は一対一で対座して教える。関西の生田流、東京の山田流と流派が分かれている。

お弟子さんたちも、たくさん来られたが、

お稽古のないときは、

女傑たちのたまり場になっていた。

町一番の料亭の女将さん、

網本、すなわち水産会社の社長の奥さん、

侠客の親分の女将さん、

そして女傑とは言えないが、私の母が、

お琴の先生を囲んで

お茶を飲みながら

何時間もよもやま話をするのだ。

そして、

ときどき私にもお呼びがかかった。

私はおいしい茶菓子にひかれて

嫌がらずに出掛けた。

最初の頃は、私が

小学校の４年生くらいだったと思う。

誰かが、
「この名前の人はどんな人かわかる？」

と、名前を書いた紙を

私に見せる。

私は、姓名判断と直観で、

たとえば、
「この人は、えらい社長さんで、外観は大入道みたいだ。」
などと答える。
皆は、
「その通りよ。当たった。」
と、手を叩いて喜ぶのである。

その大入道に「何でもしてやる」と言ってもらったことがるが、のちの話である。

そのうち、私は、

岩波文庫の易の本を手に入れて、

それを使って

易占も始めた。

当時の岩波文庫の易経は

書き下し文だけなので、

小学生にとってはひどく難解であった。

理解できないながら、

何とか占ってあげたら、

よく的中する。

そのうち、近所の時計屋さんから、
「お客さんから預かっていた時計をなくして困っている、どこにあるか占ってほしい。」
などという依頼も来るようになり、

お小遣いもいただけうようになった。

女傑たちも、子供の私を、

ある程度、

敬ってくれるような雰囲気になってきた。

息子さんやお嬢さんの縁談も、

よく占ってあげた。

そのときはまったくわからなかったことだが、

侠客の女将さんのお嬢さんと、

私の家内は同級生だった。

家内に
「娘の手相も見たことがあるよ。」
と言ったら、
「ふうん、そうなの。」
と軽くいなされてしまったが。

先日、家内に

その人から連絡があって、出かけて行って、

「楽しかった」

と言っていた。

どこかで、

縁はつながっているのかも知れない。

＜今の運勢＞

「既済」。１つ仕事は片付いた。一応終わりにして次のことに取り掛かるとよい。

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占いを始めた頃は小学生