東京ローズとされた女性。
Iva Ikuko Toguri D'Aquino
アイバ・郁子・戸栗・ダキノ
8月15日のテレビ番組で65周年記念スクープとして、
『消えた東京ローズを追え 戦後65年目の真実』の話題を取り上げていた。
残念ながら、私は直接見たわけではないので、どのような意図で進行でされたのかはしらないが、ここでは、彼女は「冤罪」であると言っている。
今まで、戦争を語る上で欠かせない名前『東京ローズ』を聞くだけで、詳細を知っていた訳ではなかった。
それ以上、興味もわかないまま、情報もないということで、今回突然のこの番組である。
2006年9月26日、90歳でシカゴにて死去された時は、日本でニュースにならなかったと聞いている。
なったとしても、特に注目されたとは思えない。
しかし、米国ではずっと注目の対象だったようだ。
私は、この番組が始まる前、スカルツォさんから『東京ローズ』を知っているか?
ということを聞かれていたので、個人的に調べなければいけないと思っていた。
スカルツォ氏が言うには、彼が最初に聞いた「GAMAN」は、彼女の事を書いた本で知った、ということだった。
どの本だか確かめていない。
スカルツォ氏の住んでいるカルフォルニアは、強制収容所があったことから日系人がより多いところだ。
彼自身、長年、彼らの様子を見ていたし、直接、付き合ってもいた。
問題もよく知っていることだろう。
東京ローズの一般的に流されている情報は、1976年12月末に「東京ローズ」(サイマル出版会)から出版されたドウス昌代著作によるものではないかと推測する。
しかし、これは、以下の大統領特赦書イベントの前までで、その後のことは、1982年11月の文春文庫の「あとがき」で触れている。
当時の大統領フォードが特赦書にサインをしたのは1977年1月18日、フォードとカーターが交替する直前のことで「大統領特赦を与えた」と1月19日に発表した。
アイバは、判決後の28年目にして剥奪されていたアメリカ市民権を取り戻した。
このイベントとたまたま同時進行で取材していたのが「特赦―東京ローズの虚像と実像」上坂冬子著、文芸春秋(1978.6)である。
1976年7月から取材、交流を続けてきた上坂冬子女氏の本のタイトルが「特赦」なのは、丁度このタイミングだったからであろう。
(1995年に中央公論社から文庫本『東京ローズ・戦時謀略放送の花』と改題された)
だから、『東京ローズ』に関する大まかな筋書きはドウス昌子の著作にあるようなことを踏襲したとして、ドウス昌代女史の間違った引用を訂正するくらいであった。
あとは、『東京ローズ』の関係者を上坂女史なりに取材している。
「東京ローズ」ドウス昌代著
1963年に渡米しスタンフォード大学の教授ピーター・ドウス氏と結婚した。始めて書いたこの本で第8回講談社出版文化賞(ノンフェクション部門)を受賞しており、その後、文庫本(1982)、新装本(1990)と出されている。
本書のアメリカでの出版は、JACL(引用者註;日系市民協会)関係者の強い薦めもあり、早くから私の念頭にあった。アメリカ日系人史においてだけでなく、アメリカ市民運動から見ても象徴的な事件と思われるこの裁判に関する書物は、当時全くといっていいほど見当たらなかった。
…中略…
アメリカでノンフェクションを出版する場合、まず考えねばならないのが訴訟問題である。
…中略…
間もなく出版はニューヨークの講談社インターナショナルに決まった。出版及び販売はハーバー&ロウ社では二人の弁護士が目を通して、何の問題もなくOKしたことを付け加えておきたい。
英語での出版は、前述の理由から日本語版より三年も遅れたが、エドウィン・ライシャワー教授の「今日の人種差別及び真の法の在り方をもアメリカ人に強く問うてくる」との序を得て、1979年に出版された。アメリカ公民権連合の創始者ロジャー・ボールドウィン氏も推薦の言葉を寄せてくれた。
幸い反響は良く、全米各地とカナダで書評が続いて出た。中でも印象的だったのは、アイバ・トグリ・ダキノが現在も住む地元シカゴ・トリビューン紙のものだった。その一文は次のように結ばれていた。
「最終的には特赦になったからといって、我が国の歴史におけるこの恥ずべき一章が報いられたということでは決してない」(一九七九・六・三)
(「東京ローズ」新装版、ドウス昌代著、1990、『文庫本のためのあとがき』336~338頁)
なんとも華々しい。
だからといって、特赦(1977年)の後、2006年9月26日の逝去。2010年8月15日のテレビ番組の特集に至るまで、なんにもないといっていいほど静かである。
こっちが気付かないだけなのかもしれないが。
そこでもう一つ、日本で「東京ローズ」というタイトルを冠した三冊の三冊目の本が手に入った。
彼女たちより早く出された「マル秘=東京ローズ残酷物語;ある女スパイと太平洋戦争」五島勉著、ノーベル書房(1969)という本である。
彼女たちより早く出版されているのに、そのどちらも参考図書には入っていない。
読みはじめてすぐ気付くが、その関係者登場人物、内容が全然違う。◆
(つづく)
【資料】
国立国会図書館
Tokyo Rose Case Files
資料群名(日本語仮訳) 極東軍総司令部憲兵監部犯罪捜査課 トウキョウ・ローズ関係文書
http://www.ndl.go.jp/jp/data/kensei_shiryo/imin/YF_A12.html