あの年は猛暑だったはずなのに、
暑さをよく覚えていない。

病室から見たあの白い入道雲と
強い日差しの青空が、
音も温度もなく、記憶に残っている。

秋を待たずして逝ってしまったあの人は、
いまどこに居るのだろうか、と時々思う。

心にぽっかり空いてしまったところに
いくら涙を流し込んでも
埋まらなかったけど

時間がいつの間にか
その穴を奥の方に押し込めてくれた。

別れの時の辛さは、癒えたけれど、
別れたことへの悲しさは、
別の形でいつまでも残り続ける。

日常で何気ない瞬間に、
あの人の言葉や笑顔を必要としている自分に
ふと気が付いた時に蘇る。

人として生まれてきて
出会えたご縁の大きなインパクトは
いくら魂の永遠の存在を説かれても
色褪せるものではない。

あー、夏という季節は、
時折時間の感覚を失くさせる。

過去の歴史の大きな悲劇と
私のなかの個人史が
なぜか重なり合って

過去と今とを行ったり来たりしながら
悼むことを私に選ばせる。

その行き来を繰り返しつつ
「生きる」と言うことの
あまりの希少さにも驚かされる。

たくさんの命の連なりで
私がいまここに居て、
今の時間を生きていること。

夏は逝ってしまった人たちが
束になって、
そのことを私に教えてくれる季節。

じりじりと容赦なく照りつける太陽が
拭っても拭っても流れる汗が、
今「生きている」ことを教えてくれる季節。

大切な感謝の季節。


うつつ


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