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こちらは、「知りたがり屋の博士 -中-」からの続きです。
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キュリオは、消えてしまいました。
キュリオが消えた後、博士は慌てました。
何故なら、今までキュリオがすべて答えをくれていたからです。
博士のところには相変わらず、たくさんの人が疑問を持ってやってきました。
しかし、博士は自分がさほど答えに困らないことに気が付きました。
何故なら、キュリオを見続けた生まれてから今までの間、
キュリオを通してみてきたことは、博士の中にすでに蓄積されていたからです。
何か聞かれると、前に解いた疑問を思い出せば、十分に答えることが出来ました。
これは博士にとっては大きな驚きでした。
博士は、今までキュリオが与えてくれていたものに改めて感謝し、ひどい言葉を最後に言ってしまったことを悔いました。
「キュリオ、ごめんなさい。僕のところに戻ってきて」
薔薇の女性を探し求めた気持ちとは違う気持ちで、博士は今度はキュリオを探し求めましたが、もうキュリオは戻ってきませんでした。
手のひらに残る冷たい丸いコロンとした感覚を反芻しながら、彼は何度もため息をつきました。
そんなある日、隣の家に住む花屋のロジャーと言う男性が、博士を訪ねてきました。
彼は、博士とは小さなころからの隣人で、同じ年で、同じ学校に通い、一緒に大きくなった人でした。
ロジャーは大変困っていました。
ロジャーの育てるプランターのすみれが、全く育たなくなってしまったのです。
土を変えても、肥料をあげても全く育たなくなりました。
最初は悪い虫が居るのかと思いましたが、一向に芽が出てくる気配がありません。
ロジャーはいつものように、「早く出てこい」と心を込めて土に向かって呼びかけましたが、何も変化がおこりませんでした。
一か月、それを繰り返して、とうとう博士のところに持ってきたのです。
博士は最初、じっと土の中を見ました。
目をつぶって、何かをじっと考えました。
そして言いました。
「ごめん。わからない」
え?とロジャーが驚いた顔をしました。そんなことは今まで一度だってなかったからです。
「博士。お前にわからないことはないだろう。頼むよ。答えを教えてくれ」
ロジャーは博士に手を合わせんばかりに言います。
その姿を見て、博士はもう一度考えました。
キュリオが今まで教えてくれた、見せてくれたさまざまのものを、あらんかぎり、思い浮かべました。
でも、力なく肩を落としました。
「ごめん。ごめん。本当にわからないんだ」
博士は言い、ただ、謝り続けました。そして不意にぶつぶつと独り言を言い始めました。
「僕にはあれがないとやっぱりだめなんだ。キュリオが戻ってきてくれないとだめなんだ」
「あー、キュリオさえここにあれば」
「わからないわからない」
博士は机に両肘をついて、頭をかきむしりました。
その様子をロジャーは、目を丸くして、じっと見ていました。
そんな博士を見たのは初めてでした。
博士はいつも冷静で、正しい答えを教えてくれて、礼を言っても、笑顔になることもありませんでしたが、得意顔になることも少しもありませんでした。
博士のあわてて、嘆いている姿をロジャーはじっと見続けました。
最初は驚いて、次に不思議そうに、そして最後は優しい表情になりました。
そして、いたわるような調子でそっと言いました。
「マック、大丈夫だよ。何を失くしたかは知らんが、元気を出せよ」
そして、博士の肩に腕を回しました。
「大丈夫だよ。元気を出せよ」と、もう一度。
そして今度は大きな声で言いました。
「お互いに元気を出そう!マック。友達どおし、仲良く酒でも飲みに行こう!」
今度は博士が驚く番でした。
今まで、名前で呼ばれたことも、友達と言われたこともなかったからです。
もちろん、一緒にお酒を飲みに行ったことどころか、ごはんを食べたこともありませんでした。
博士はびっくりしてロジャーを見つめ、ロジャーはにっこりとうなずきました。
そして、博士も、しばらく考えた後、こくりと子供のように聞き分けよくうなずきました。
そうすれば、きっと心が少し晴れるかもしれない。
本当に何となくですが、ロジャーの笑顔を見て、そう思ったのです。
「よしっ!じゃ、行こう!綺麗な娘が居る酒場があるんだ。そこで話を聞こう!」
ロジャーは博士の肩をぱーんとひとたたきし、またそのまま腕をまわしたまま、歩き出しました。
博士は戸惑いながら、でもはにかんで笑いながら、うなずいて歩いていきました。
博士の足取りはロジャーの速さについていけなくて、その上、腕を回されているので、服はぐしゃぐしゃになりました。
もとから寝癖のついていた髪は、もっともさもさになりました。
それでも博士はちょっとだけ嬉しそうな顔をして、ついていきました。
そう、まるで引っ張られるみたいにして・・・(笑)
二人が去った後、博士の机の脇には、キュリオが現れました。
キュリオは前と変わらない姿でしたが、少しだけ心なしか嬉しそうに明るく輝いて見えました。
再びぼーっと光ったと思ったら、そのままふわっと舞い上がり、天に昇って行きました。
高く浮かび上がって、窓から外に出て、また高く、高く、もっと高く・・・・
そして、そのまま空に吸い込まれていきました。
そう、キュリオは役目を終えたのです。
でも、残念ながら、そのキュリオの最後の光景を見た人は誰も居ませんでした。
「知りたがり屋の博士」 終わり
読んで頂き、有難うございましたー。
桜