あるところに知りたがり屋の博士が居ました。


博士と言うのは、実はあだ名で本当の名前は、マックウェルと言いましたが、ほとんどの人が彼のことを「博士」と呼びました。


何故なら、彼はとても物知りだったからです。


それゆえ、彼はまだ若かったにもかかわらず、村の人からいろいろな相談を受けました。


法学、数学、生物学、物理学と言った学問に関する問題から、壊れた時計の修理、機械の仕組みまで、さまざまな問題の相談を受け、彼はそれをちゃんと解いてみせました。


人々は言いました。

「なんて頭がいいんだろう。博士に聞けば何でも答えてくれる。問題を解決してくれる」


しかし、人々がそう言っても博士はちっともおごり高ぶることはありませんでした。

何故なら、彼には秘密があったのです。


彼は、小さな水晶の玉を持っていました。

それは、「キュリオ-CURIO」と呼ばれる玉で、彼を産んでまもなくして母親が彼に渡したものでした。


彼を産んだ時、母親は嬉しいと同時に嘆きました。

身体の弱い彼女は彼を残して、すぐに逝かなければならないことを知っていたからです。


「こんなにかわいい坊やを一人で残して逝くなんて・・・」


小さな指で窓の雲を指さしながら、言葉も話せないのに、彼女に答えを求める坊や。

彼女は青白い頬を涙で濡らして言いました。


「あー、私は小さなあなたが心配で心配で仕方ない。いつもあなたの味方になってくれるように、助けてくれるように、このキュリオをあげましょう」


そう言って彼女は今度は彼女の涙を指さして答えを求める彼の小さな小さな手にに、水晶の丸い玉を握らせました。

それはまだ彼の手には大きすぎてこぼれそうでしたが、不思議なことにぴったりと手のひらにくっついたのです。


坊やはキュリオをみて嬉しそうに、キャッキャッと笑いました。

それを見た彼女は安心して天国に行きました。


そんな風にして、母親から幼い博士が譲り受けたキュリオは素晴らしい水晶玉でした。


博士が「これはなんだろう」「これはどうしてだろう」と疑問を持つと、途端に手のひらにその姿を現しました。

キラキラと光って、それはそれは美しいのですが、なによりも素晴らしいのは、疑問にその玉をかざすと、答えがきちんと出てくるのです。

それはそれはとても美しい答えで、時には形状のバランスのよい数式になっていたり、時にはくっきりとした色を出して来たり、博士はいつもそれを見て、心に浮かんだ答えを言えば正解を導くことが出来ました。


最初、博士はみんなもキュリオを持っているものだと思っていました。


しかし、あるとき、自分だけが持っていることに気が付きました。そして、それはほかの人には見えないことにも気が付いたのです。

賢い博士は、このことを黙っていて誰にも告げませんでした。

なんとなく、そのほうがいいと思ったのです。


なので、人々は、正解を言う時、博士が手のひらを凝視して、「あーなるほど、そうなのか」とか、「これは美しい」と言う言葉を聞き、難解を解いてくれた彼に感謝をしつつも、どこかで「少し変人に違いない」とも思っていました。

だから、博士は尊敬はされていても、皆から少しだけ距離をおかれていました。


ある日のこと。


博士が町を歩いていると、遠くからにぎやかな笑い声が聞こえてきました。


一体なにごとだろう?


そう思うと同時に、彼の手のひらにキュリオが現れます。

でも、彼はそれを覗かずに騒ぎの方向に歩いていきました。

疑問に思ったとたんに、キュリオは現れるので博士はもう慣れっこでした。

ただ、自分で確かめられることはなるだけ自分の脚で歩いて、目で見て確かめることに決めていました。

そうしたほうが、「面白い」と言うことが彼にはぼんやりわかっていたからです。

考えても考えてもどうしてもわからないときだけ、キュリオを使うことに決めていましたから。


声は町の広場からで、そこには、旅の劇団が来ていました。


ちょうど、真っ赤な衣装を着た綺麗な娘が踊っているところで、町の人達はその華麗な踊りに合わせて口笛を吹いたり、手を鳴らしたり、それはそれは楽しそうに囃し立てていました。


娘は漆黒色の髪に、浅黒い肌。黒曜石かと思うような大きな輝く目。

そして、バラ色の唇を持っていました。


彼女はドレスをすそを翻して踊ります。


それは博士の目にはとても美しく、また華麗で、すっくと立つ一輪の真紅の薔薇を思わせました。

彼女の細い手、指の動きのキレの良さは、まるで薔薇のとげのようでした。

彼女のドレスの裾から、時折見える細いきゃしゃな足首は、大輪のバラを支える健気な茎のようでした。


その時です。


遠くの彼女が踊りながら、博士のほうをちらっと見ました。

ちらっと見て視線を外した後、すぐに視線を戻して、パチっとウィンクをしたのです。


博士の周囲から「おー!」と言う声が上がり、周囲の人は皆嬉しそうに口々に「今オレにウィンクをした」と言いました。


でも、博士にはわかりました。

あれは、博士だけに送られたウィンクでした。


博士は驚いて彼女を見た後、急いでキュリオを取り出して彼女にかざしました。



続く・・・


http://ameblo.jp/oosui/entry-11509951836.html  中巻




桜水現実のサクラサク-水晶


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