先日、大阪に行った際にこの話が出ました。
2年前の記事ですが、なんとなく、再掲したくなりました。
これは、私の魂の遠い記憶?の物語です☆☆
「一つ目の巨人の話」
昔、あるところに一つ目の巨人が住んでいました。
巨人はとても強く、体は緑色で筋肉が隆々としており、手で岩を握り潰し、一振りで大木を倒すほどでした。
巨人が声を上げると、遠くの木の葉までも降り落ちてしまい。その上、巨人の心臓はとても硬い石で出来ていたので、とても丈夫で病知らずでした。
そんな巨人でしたが、彼は自分が醜いことを知っていました。
普段は洞窟に住んでいるのですが、巨人が人里に下りていくと、人間は皆言うのです。
「逃げろ、醜い巨人が来たぞ。喰われてしまう。目を合わせるな。逃げろ。子供らを守れ」
巨人はそのたびに驚きます。
何故なら彼は人を食うことなど、考えたこともないからです。
彼は、木の芽や木の実を食べ、河から魚を採り、森の動物たちを時折食らいましたが、人を食べたことは一度もありませんでした。
俺は醜いのだ。俺はきっと怪物なのだ。
巨人は首をかしげて思いました。それならいっそ人を食ってやろうか、と。
でも、巨人はやっぱり人を食いませんでした。
巨人の大きな一つ目に見られて、震えて動けなくなった親子を見たときも。
木の陰にぶるぶるに震えて隠れている村の恋人どおしを見たときも。
巨人は手をのばしかけ、でもやっぱり食いませんでした。
そのうち、巨人は昼間に動くのをやめ、昼間は洞窟にこもり、夜日が落ちて自分の姿が暗闇で隠れるのを待って活動するようになりました。
そんなある日のこと。
巨人が洞窟に一人で居ると、かわいらしい歌声が聞こえてきました。
それはとても軽やかで、鈴がなるようなかわいらしい歌声で、巨人はついつい歌声の主を見ようと、洞窟から顔を出してしまいました。
でも、見慣れていない眩しい日の光が巨人の目を直撃して、一瞬めまいを感じ、すぐにひっこめてしまいました。
歌声はピタッと止んでしまい、巨人は思います。
あー、自分の姿を見せたから、きっと歌声が逃げて行ってしまったのだな・・・。
すると、遠くの洞窟の入り口から、またあの可愛い声がしました。
「ごめんくださいな」
入ってくる日の光に声の主のシルエットが浮かびます。
ひらひらしたドレス。長い髪。リボンがちょこんと乗っています。
小さな小さな女の子。
「だれかいるの?」
女の子は尋ねました。
「俺がここにいる」
巨人は迷った末に答えました。女の子が吹き飛んでしまわないように、出来るだけ小さな声で。
サク、サクっと、小さな靴が洞窟に溜まってしまった木の葉を踏みしだく音がして、女の子が入ってくるのがわかりました。
「入ってきてはいけない」
と、巨人はとっさに言いました。それから、俺は怪物なんだ、と心の中で言いました。
女の子の足音が、ぱたりと止まり、その後じっとこちらを伺う気配がしました。
「じゃあ、あなたが出てきて」
女の子はそう言うと、きびすを返して外に出て行き、また歌を続けました。
ああ、その歌の気持ち良さをなんと表現すればいいのでしょう?
巨人は一つ目を閉じて、じっと聴き入りました。
巨人の石でできた心臓が、かつてない波打つ動きをするのがわかりました。
と同時に、何か熱いものが石の心臓から流れ出るのです。
そして巨人はふらふらと誘われるように、洞窟の外に出て行きました。
つづく
「一つ目の巨人の話 - 下」 → コチラ