ヒプノセラピー体験談 その2
暗くて、何も見えない。
ようくようく目を凝らしたら、テーブルの下に居て、赤と黒の模様のじゅうたんの上にしゃがんでいた。
遠くに暖炉が見える。暖炉の火はうすぼんやりしている。
セラピストさんにいろいろと質問されながら、答えていくのであるが、ここからは私の得意な物語形式で語って行こうと思う(笑)
食卓は円卓で、私はいつも一人で食事をしていた。
作ってくれる人はいるらしいが、姿は見えない。
父と母はパーティに行っていることが多く、ほとんど食事は一人きり。
4歳、ぐらいだったのだと思う。
父はどういう人かと言うと、穏やかに笑う優しい人だったが、あまり決断力がなく、男らしいと言う感じではなかった。
母はいつも機嫌が悪く、人間関係でいらいらとしていた。
彼らはあまり社交的なほうでないのだが、家を守るためにパーティ(集まり?)に顔を出さねばならず、華やかな生活とは裏腹に、気苦労が耐えなかった。
父の父母(私から言うと祖父母)との関係もあまり良くなく、だからと言って、父が母を護ると言う感じでもなかったようだった。
家を守る。
これが、この私の過去世の大きなキーワードのようだった。
そこから、セラピストさんに誘導されて、時間を少し進める。
20歳の私。
丘の上の草原に立って、眼下の町を見ている。
ここを出たい、と思っている。
出て何をしたいか?
本を売りたい。本を書きたい。文字を教えたい。たくさんの知らないことを勉強したい。
でも、行けない、と思う。
「どうして行けないのですか?」セラピストさんの声。
親が悲しむからだ、とすぐに思う。悲しませてはいけない。私はここに残ってちゃんと家をまもらなくてはいけない。
家を守る。
そこから、またセラピストさんに誘導されて、時間を少し進める。
50歳の私。
同じ丘の上の草原に立って、眼下の町を見ている。
もうここを出ることはない。仕方がないと諦めている。
これが私の人生なのだ。
父も母も死んでしまった。でも、私は二人を看取った。それにちゃんと家を守っている。
家を守る。
ここで不思議なことが起こった。
「時間を進めてください」と言われたのに、私は25歳に戻っていた。
25歳の私。
川べりに男性と腰かけている。
彼は草花にとても詳しい。いろんなことを教えてくれる。
みすぼらしい服を着ているけれど、笑顔はとてもやわらかで、日向に居るような気になれる。
彼が私に丘で声をかけた理由は、「さみしそうだったから」。
そこに魅かれた。
セラピストさんの声。「彼のなかに入って、過去世のうつつさんに言いたいことを言って下さい」
「僕は一緒にはなれないことはわかっている。だけど、自分を信じて。希望をもって。諦めないで」
結局、一緒にはなれなかったんだな、と、ため息をつく今の自分が居た。でも、この後、彼の言葉はずっとキーワードになり続ける。
自分を信じて。希望をもって。
それから、臨終のシーンに時間を上った。
90歳の私(うわっ!結構長生き!)
数人の人達が私を見ている。
親しい人は誰もいない。家で働いている人達だ。
もう一度、あの青年に会いたいな、と思った。誰も血の繋がった人がいない。
でも、私は思っている。
家を守った。よく頑張った。だからもう逝ってもいい。
過去世の私から、今の私に言いたいことはありますか?とセラピストさんの声。
「自分を信じて。諦めないで。希望を持って。人生を楽しんで」
今の私から過去世の私に何かありますか?とセラピストさんのささやき。
「家族を失うのが怖い」
自分でもびっくりしたんだけど、私はそう言っていた。
何故、そんなことを思ったのかも言ったのかもわからない。失うことが死を意味しているのか、遠くに行くことで家族の縁が切れることを恐れた過去の自分に対して言ったのか、それもわからなかった。
過去世の自分は答える。
「大丈夫。家族は決して失わない」
ここから先はセラピーを終えてから考えたことだ。
私は、どうしてあんなことを口走ったのか、考えていた。
もしかしたら、私は過去で家族と一緒に居ることで束縛を受け、だからこそ、離れて暮らす人生を選んだ今、今度は家族を失いつつあると感じていたのかもしれない。
でも、戻りたくはない。なぜなら、また束縛を受ける。自由で居られない。
潜在意識のトラウマは語る。
町を出なさい。でも代償は払うことになるよ、と。
「自由を獲得するリスクは家族を失うことだ」と思っているのかもしれない。
(ヒプノセラピー体験 その3に続く!)
桜