桜の手紙① | 大野くんと杉山くん

桜の手紙①

N氏からの頂き物で、ちびまる子ちゃんノーマル小説です。
小学校の卒業式ものです。

お読みのなる前にワタスがぐだぐだ言うほど無粋なものはないので、そりは小説の最後にw

ぜひ、音が流れてもよい環境なら、この歌を聴きながら読んでいただけるとなおよろしいかと^^
ではではごゆるりと堪能してくださいませ♪





桜の手紙



卒業式を終え、在校生のアーチを抜けると、晴れ渡った空に飛行機雲がひとすじ、すっきりとした線を描いていた。

体育館からぞろぞろと押し出された人の群れは、主役の卒業生よりも母親たちの方がカラフルだ。

昨夜遅くに降った雨は、運動場に染みわたった。

成長した分、靴底が深く地面にめりこむ、ぬかるむほどではない。

自分がここにいた証のようだ、模様まで写った足跡を見て少し切なさを覚えた。

風はまだ肌寒いが、校庭の桜が春を告げている。

(今日くらい、思い出に浸ってもいいよな・・・)



この運動場は、風さえ吹けば、朝残っていた水たまりもたちまち姿を消す。

雨上がりの日は、それを待っていたかのように、校舎から出てきた子供たちの歓声で一段とにぎやかになった。

「ほらな、やっぱり昼休みには乾くって言ったろ?」

雲間からのぞいた太陽を背に自信たっぷりの笑顔で、大野がサッカーボールを投げてよこした。

俺が目を細めたのは、光線のせいなのか。

あの日からもう3年もたっている。

大野が転校してからずっと、いたるところであいつの姿が現れ、俺を悩ませた。

朝の教室、休み時間の廊下、帰り道、はては給食のプリンを見ただけで。

それは思い出をなぞっているのか、願望が見せる幻なのか、精神的におかしくなっているのか、自分でもよく分からなくなっていた。

 見慣れたクラスメイトの中に大野だけがいない、席替えをしても大野の席だけがない。

とにかく淋しくて、でもそれをクラスのみんなには気づかれたくなくて、自分でも痛いくらいの空元気で5年生のクラス変えまで過ごしていた。

俺をいたわろうとする教室内の空気は、とても居心地が悪い。

(気がつくとさくらがこっち見てんだよな、あの見透かしたような目で・・・。あたしゃ、何でもお見通しだよってか?)



ひとつひとつ校庭の遊具に触れながら歩いていると、香水と化粧のにおいが風にのって運ばれてきた。

一瞬顔をしかめる。

参観会の日、母親達で混雑している廊下の情景が浮かび上がった。

大野と2人、鼻をつまんで人波を押し分け、一気に下駄箱まで走り抜ける。

「毒ガスエリア、脱出成功!!」

新鮮な空気を吸い込んで、同時に笑い出した。

「何で化粧のにおいって、あんなにくせぇんだろ?」

「しかも団体様で来られたら、殺人兵器だよな!」

おぇぇ~と吐く真似をして、またバカみたいに笑いあう。

帰り道で俺たちは、どっちが長く息を止められるか競走したり、いろんな物のにおいを嗅いだりした。

「知ってるか? においって、嗅いだだけでその時の記憶を思い出すんだってさ」

俺のにおいを嗅いで、大野が言った。

 「運動場のにおい」

 「えっ?」

 「夏の運動場、太陽がかんかんに照ってて、サッカーしてる時みたいな、そんな感じ、杉山のにおい」

俺も大野の髪のにおいを嗅いでみた。

「ホントだ・・・」

大野のにおいを記憶しながら、俺は真夏の蝉の鳴き声が聞こえた気がした。



鉄棒に背中をあずけて空を仰いでいると、突然名前を呼ばれ、現実に戻された。

「杉山!」

「!・・・・・・お、大杉・・・」

「なに、物思いにふけってんだよ。あ、もしかして泣いてた?」

「んなわけねーだろ!」

わざと顔を覗き込もうとする大杉の頭を、俺は卒業証書の筒で軽くはたいた。

「じゃ、俺の見間違いか」

大杉智也とは5、6年生で同じクラスになった。

俺よりも少し背が高く、いかにも女子受けしそうな顔だが、だからといって鼻にかけるところはない。

性格もよく、けっこう気が合って、この2年間何かとつるむようになった。

「桜の木の下で思い出に浸ってる風だったから、声かけるの迷っちまったよ。おまえって、意外な一面あるからさ。しっかりしてるようで、天然ボケかますじゃん。この前の理科の時だって、おまえ、リトマス紙のこと・・・」

「その話はもういいだろ! 何の用だよ」

「そうそう、おまえの『人類の歩み』って本、も少し借りててもいいか?」

「ああ、別にかまわないけど。どこまで読んだんだよ」

「えーと・・・、縦穴式住居?」

「全っ然、読んでねぇじゃん! あれは20世紀に入ってからがすごいんだぜ」

「へぇ~、おまえってすげぇなぁ」

(いや、すごいのは長山だよ。おれ、結局読むのあきらめたし)

感心している大杉の横で、俺は小さく息を吐いた。

「あと、今日これから木村の家で、Wiiやるんだけどおまえも一緒にどう? どうせおまえんちおばさんも、この後お茶してくんだろ?」

「・・・・・・、あー・・・・・・、悪い・・・、今日は、ちょっと・・・・・・」

とっさにいい理由が出てこない。

俺の心をどこまで読んだのか、歯切れの悪い返事を大杉は軽く受け流し、卒業証書で小突いてきた。

「そうやって待ってても、告白する子はやってこないぞ? ま、いいや。どうせ、中学でも一緒だし、春休みの間も会えるし。んじゃ、またな」

ごめん、と言いかけて、飲み込んだ。

大杉は立ち去りかけて、一番大事なこと伝えるのを忘れてたと戻ってきた。

「3年だった時のクラスの奴らが、おまえのこと探してたぜ。ジャングルジムまで来いってさ」