桜の手紙② | 大野くんと杉山くん

桜の手紙②



重たかった足取りを動かせたのは、今日が小学校最後の日だからだ。

ほとんどのヤツが同じ中学に進学するし、そこでまたクラスメイトになるヤツだっているだろうけど、その時はみんな学ランにセーラー服だ。

校舎も小学校より広いし、雰囲気も違うらしい。(姉ちゃんが言うには)

もうそれで、俺の記憶から大野が顔を出すことはないんだ、きっと、たぶん・・・・・・。




「杉山君! ズバリ! あなたは来るのが遅すぎるでしょう!」

「ま、丸尾っ」

相変わらずのぐるぐる眼鏡の学級委員長が、意外な力強さで俺の腕を取り、引っ張っていく。

(こいつも成長したんだな・・・)

3年の時はひょろひょろしていたのに、自分の前を行く背中は、少したくましい感じがした。

「あ、やっと来た!」

「おせぇぞ! 杉山!」

見れば、ジャングルジムにあの時のなつかしい顔がそろっていた。

はまじ、ブー太郎、長山、花輪、関口、藤木、永沢、小杉、山田、さくらに穂波、みぎわ、野口・・・、先生も・・・。

「急遽、さくらさんの思いつきで声をかけたので、クラス全員は集まれなかったのは残念ですが、杉山君! ズバリ! あなたが来ないのでは意味がないことになっていたでし

ょう! さあ、早くしてください! 私はこのあと母さまと出かけるのですから!」

穂波のおじさんが三脚を立てて、カメラを構えている。

「じゃあ、みんなジャングルジムの好きなとこに登って」

「わーい、じゃあ、オイラはてっぺんだじょお」

「あっ、コラ! 山田!」

さくらと穂波が慌てて山田の足を引っ張る。

「ヘーイ、山田君。キミはボクのとなりに来るといいよ、ヒデじいがくれたバラの花束を持ってくれないかい?」

「えっ、オイラが持ってもいいのかい?」

山田は花束を受け取ると、嬉しそうにくるくる回った。

それをみぎわがものすごい表情でにらんでいる・・・。

みんなに押される形でジャングルジムを登る途中、藤木と永沢がまったく同じブレザーを着ていることに気がついた。

「卒業式におそろいのブレザーを着てくるなんて、やっぱりおまえら、仲が良かったんだなぁ」

からかい半分、感心半分ではまじが言うと、永沢が憎々しげな口調で反論した。

「このブレザー、先に買ったのはボクの方なんだ。まったく、何を着ていいか分からないからといって、ボクの真似をするなんて。キミは最後の最後まで、卑怯をつらぬいたんだね、むしろ、あっぱれさ」

「そんな、男子の着る服なんて、たいした違いはないじゃないか。他にも同じブレザー着ているヤツだっていたよ」

「『キミと』一緒っていうのがイヤなんだよ。男同士おそろいの服を着て並んでいたら、気持ち悪いじゃないか。ホモだと思われたらどうしてくれるんだ」

ぶちぶちと嫌味を続ける永沢の横を、上へ登っていく。

(やっぱ、あの時おそろいの服買わなくて良かったかも・・・)

思い出し苦笑いがこみ上げる。

ジャングルジムのてっぺん・・・、一段一段登るごとに空を近くに感じたあの感覚は、今ではもう感じられない。

それは、自分が成長したからだろうか・・・、体が? ・・・心が?

「あ、杉山君、もちょっと左によって」

「?」

「そうそう、そのくらい」

さくらが首をねじって、下から声をかける。

言われるままに、1人分空けるような感じで、俺は左に移動した。

・・・・・・1人分・・・・・・・・・。

そこでやっと、俺はこの写真の意味に気がついた。

忘れていたあの日がよみがえる。

あれは夏休み間近の、暑い日だった。

昼休みのサッカーをしている途中で、さくらたちの悲鳴に近い怒鳴り声が聞こえてきた。

はっとして見ると、うちのクラスの女子を、4年生の男子数人が無理矢理ジャングルジムから追い出している。

ひどいやつは上に登って砂利を投げつけ、穂波は眼鏡をはずして泣きじゃくっているようだった。

それをちびのさくらが、かばうように前に立っている。

瞬間、俺は自分の首の後ろが熱くなるのを感じ、サッカーはそっちのけで駆け出していた。

「やめろー!!」

俺はもうがむしゃらに4年生のヤツらにかかっていった。

たった1年の差だが、体の大きさにすると厄介で、服をつかんで引きずり下ろそうとしても、逆に蹴られてなかなか思うようにいかない。

「杉山―!!」

一足遅れで大野がきた時には、俺は一番体がでかいヤツに羽交い絞めにされていた。

「大野っ! 蹴れっ! シュートだっ!!」

俺の声を合図に、脇に抱えていたサッカーボールを、大野は迷わず蹴った。

大野の怒りを乗せたボールは、速い回転で一直線に飛んでくる。

(ナイスコース!!)

寸前で俺は思い切り頭を下げた。

バンッと命中を感じさせる音が響き、自由になった、すかさず離れて振り返る。

それまで威勢のよかったそいつは、顔面を両手で押さえながら、よろよろと突っ伏し、うめくような泣き声を上げた。

ぽたぽたと、指の間から鼻血が流れ、乾いた地面に鮮やかに赤く染みていく。

結局、4年生のヤツらは悪態をつきながらも、鼻血まみれのそいつを囲んで保健室へと急ぎ、俺と大野は集まってきたブー太郎やはまじたちから大歓声を浴びたのだ。

女子たちからもテレるほど感謝され、何だかのぼせた俺たちは、

「ジャングルジムが俺たちの城だぜ」

と、肩を組んで息巻いた。

さくらはどつかれて転んだのか、ほっぺたにまだ砂利がついていた。

俺はそれを教えてやりながら、小さな背中をひとつ叩く。

「おまえ、一番がんばってたじゃん! えらいぞ、さくら!」

さくらは我慢していたのか急に泣き出して、何度も何度も「ありがとう」を繰り返していた。

最後にケガをさせてしまったことで、少しだけ先生からお咎めがあったけど。

なぜジャングルジムなのか、なぜこのメンバーなのか、なぜ卒業式の今日なのか。

みんなの気持ち、俺と大野への、みんなの気持ち・・・。

教室に戻る途中の、大野が何気なくこぼした一言が、今、俺をここに座らせている。

「俺、卒業ん時は、ここで記念写真、撮りたいなぁ」




卒業式の間、これっぽっちもにじまなかった涙が、ふいうちで俺を襲った。

のどの奥がぐうっと狭くなる。

(ヤバイ・・・、ヤバイって。・・・・・・大野っ・・・)

気づかれないように証書の筒でかざしながら、太陽をあおぐと、穂波のおじさんの声が響いた。

「みんな、笑って笑って! はい、チーズ!!」




「杉山君」

撮影が終わり、だんだんに解散していく中で、先生が俺に話し掛けてきた。

「杉山君は中学校の部活動は何にするか、考えていますか?」

「はい、僕はやっぱりサッカー部に入ろうと思っています」

相変わらず先生の話し方は穏やかで、眼鏡の奥の目は優しく静かだ。

それでも3年分、先生の髪は白い部分が目立ってきているようだった。

「そう、それはいいですね。杉山君はサッカーが上手ですし、何より大好きなスポーツでしょうから」

「はい」

「中学校での部活ともなると、随分本格的になるでしょう。練習も辛いことがあるかもしれません。でも、杉山君ならそういった困難も乗り越えて、立派な選手になると先生は信じています」

本当は、大野と2人でサッカー部に入るはずだったんだ、俺たちがコンビならどこにも負けねえって・・・・・・、ツキリと、心の片隅に痛みが走る。

「練習試合も色々ありますよ。中学校にいる先生の知り合いの方に聞いたところ、県外の学校とも遠征試合をするらしいですよ」

「えっ・・・、県外?」

聞きかえす俺に、先生はゆっくりとうなづいた。

「大野君と試合をすることもありえますね。その時までがんばって、自分を磨いておきましょう。先生も応援していますよ」

突然の情報に、俺の思考回路は一瞬止まってしまった。

(そんなこと、考えもしなかった。サッカーをやっていれば、俺が強くなれば、それだけ大野に近づける・・・?)

俺は今一度姿勢を正すと、先生に深々と頭を下げた。

「先生っ! あのっ、色々お世話になりました。ありがとうございました!!」

「こちらこそ。杉山君、卒業おめでとう」

包み込むように握手をしてくれた先生の手には、優しい温かさがあった。




撮影が終わり、しばらくみんなが雑談している中で、穂波がそっと教えてくれた。

「お父さんに急いで現像してもらうから、今日の夕方には写真できるよ。杉山君、取りにきてくれる?」

少し戸惑って顔を向けると、さくらが何も言わずに強くうなづいた。

「・・・・・・サンキュ、な」




その場から立ち去ろうとする俺を、はまじたちが呼び止める。

「杉山、これからみまつやに行かねぇか?」

その後ろにブー太郎が困り顔でいるの見えた。

きっとどうやって俺をフォローしようか考えていてくれているんだろう。

今はみんなのその気持ちが、俺は素直に嬉しく感じられた。

「悪ぃ! 帰ってからやることがあるんだ。また今度な!」

思いのほか、明るい声が出た。

のどをつかえるものがない、ストレートな俺の気持ちの、声のトーン。

ブー太郎がびっくりしたような、泣きそうな笑い顔になった。




校門へと向かう足が、どんどん早くなる。

風が咲きかけの桜を吹き撫ぜ、俺は自分の胸元に寄り添う花びらに気がついた。

ブレザーの紺に咲く、うすもも色の花。

そっとつまんで、卒業証書の筒の中に入れる。

(こいつも一緒に送ってやろう)

 ガラじゃないって笑われるかもしれない、でも、俺たちがいた学校の桜だぜ。

校門のアーチをくぐって、俺は一気に駆け出した。



end









はいっ。
いかがでしたでしょうかっっ。
ちびまるファンしか知らないようなコアなネタも盛り込まれていて、ファンの方にも読み応えがある話だったんじゃないかなぁと思います。
内輪で褒めることになっちゃいますが;、ほんとよくここまで書いてくれたなぁ、と(感涙)
すごくキャラの心情を大切にしてくれた話で、ただただもう感動しきりで涙ちょちょぎれでした。

N氏が快気祝いに何かあげるわ~ちうたので、すかさず「ちびまる小説を!!!」と頼んだワタス。
「ええ~…。てかもうずっと書いてないし。まるちゃんよく知らないし。それにエロは絶対無理っ。」
「いい!エロなしでいいからっ。大杉がちょろっとでてるだけでいいからっ。短編で全っ然おk!頼むよぉおおおお。ワタス、文章にできないんだよぉおお。萌えをくれよぉお」と持ってるコミックス全て押し付け頼んだのが始まりです。(これがこのブログサイトを立ち上げて間もない頃の話でしw)
もっと言うと、N氏とは10年以上前に同じジャンル(否ちびまる子ちゃん)にハマッた際、絵描きの彼女が書いたエロ小説シリーズがどの同人誌よりもどストライクでして。「アンタ…小説も書けたんか!ちうかものっそいツボなんだけどっっ」ちうことがありました(笑)。
で、それから数年後、彼女は同人界から足を洗い、ワタスもBLとは縁遠い今の本ジャンルに移り、同人ネタで盛り上がることはなくいたわけなのですが。
で、10数年後、大杉熱が再燃したワタスの希望で長いブランクがありつつ小説を書いてもらった次第なのでつ。

忙しい合間をぬってよく書き上げてくれました。

N氏はネット環境がないのですが、皆様からのご感想などいただければ宮本がお伝えしますので、ぜひぜお待ちしております。
ほんと一言でも結構ですので、感じたままに何かお言葉をいただけたらN氏もきっと喜ぶと思うので(;><)
どんじょよろしくお願いしまつ(ペコリ)