この方も向うの撮影現場で初めてお会いした。

失礼だがその頃は、國村さんのことを存知上げなかった。


あの頃の向うの映画はアフレコがほとんどだったから、國村さんはご自分の声の他に、その映画に出てくる日本人を演じている役者のアフレコを全部やって下さった。

それぞれ声を演じわけていて、素晴らしかった。声優さんなのかとさえ思った。

スタッフの私も、日本人らしきちょい役の女の人の声をところどころアフレコした。


マニアックな映画だけれど日本でもDVDが出てたので入手して、妹に見せたら、「知らない人の顔でお姉ちゃんの声聞くと、今井美樹の声に似てる!」と。私の顔を見ながら声を聞いても似てないのだそうだ。


向うで國村さんとお仕事した映画は2本だけだったけれど、ジョン・ウー監督、チョウ・ユンファ主演の映画の方では彼もテンションが上がっていた。実は私も唯一その現場だけ緊張した。

この映画では國村さんは悪者で、有名な飲茶屋の中でチョウ・ユンファ刑事に眉間を打ち抜かれる役だったけれど、映画の冒頭ほんの数分部分に1週間かかった。


真夏の、クーラーのない取り壊し前の飲茶屋で、銃声から耳を守るため耳に綿を詰めて、Tシャツには皆どこかしら血糊が付着してて、1週間で一気に3キロ痩せられた!うふっ!


國村さんはこの時、銃を耳の当りで構える仕草で、銃の重さで勢いが余り、耳後ろを縫うケガをしてしまった。日本人担当の私としては、とても責任を感じて慌ててしまった。

でも「大丈夫だから」と逆に気遣ってくださって・・・。申し訳なかった。


あの時、チョウ・ユンファさんからの差し入れのライチを、なんだか神からの授かりもののように噛みしめながら、國村さんも私も、そして現地のスタッフたちもありがたくいただいたなあ。

チョウ・ユンファさんは「今日雑誌の撮影あったから」と言って、試しのポラの中の一枚に拾った釘でポラの表面を傷つけるようにサインして私にくれたりもして。今でも宝物。



神様のレ・シ・ピ




あれからすごい長い月日が流れて、國村さんをドラマや映画でしょちゅう見るようになっている。

もう日本では、大重鎮。きっと私の顔なんて忘れてしまっているだろうなあ。