1秒
2秒
3秒
3秒待っても、何も起こらない。とっくに殴られていいはずだ。
恐る恐る目を開けると、ハジメの拳を掴んで立っている新と目が合った。
「大川くん」
来てくれたんだ。
「なにすんだよ!」
ハジメが新にターゲットを変えたおかげで、あたしは解放された。新の姿を見て安心したのか、あたしはへなへなとその場に座り込んでしまった。
「おい、ハジメ。くだらねぇことやってんじゃねぇよ」
「お前に関係ねぇだろ?」
頭上ではハジメと新が言い合いをし、やがて殴り合いを始めた。
「いてててて」
あっという間にハジメの腕を掴んでねじ伏せ、新が言った。
「オマエ等も同じ・・・」
新は教室内をゆっくり見渡した。
かなわないと悟ったのか、ハジメは何も言い返さなかった。
新はハジメから離れると、座り込んだあたしを立たせ、そのあと島田に「もう大丈夫」と声をかけた。
「お前、がんばったな」
あたしの頭を軽く撫で、新は少し笑った。
「大川くん・・・」
お礼を言わなきゃいけない。
「お前も大川だろ?新でいいから」
「あらた?」
呼びなれない名前に、少し戸惑ってしまう。
「強いんだね」
「格闘技やってたから」
そう言って照れた顔が、本当に眩しかった。
「ふざけんなよっ!!」
悔しそうに吐き捨て、ハジメが教室から出て行く。
マサシやナオキ、その他の仲間たちも気まずそうに後を追っていなくなった。
「やった!」
誰かがそう言った途端、教室内に歓声の声が広がる。
誰も。誰一人として、逆らうことをしなかったのに。
毎日毎日、誰が一番辛かっただろう。
あたしじゃない。
島田自身だ。
あたしたちは、喜んでいい立場にいない。
ふと後ろを見ると、怒りをあらわにしている新がいた。
今にも何かをいいたそうな、そんな表情を見せている。
あたしには、新の言いたいことがわかった。
あたしたちは、ハジメを同じ。同罪なんだ。
「新、あたしが言う」
勇気をください。あたしに、勇気を。
足が震えていることを、心臓が口から飛び出してしまいそうなほどに緊張していることを必死に隠し、静かに立ち上がった。
静まり返る教室。
一斉に視線が集まる。
「あたし、あたしたち・・・・・・」
言葉に詰まって、後が続かない。
どうしてこんなに弱いのだろう。
あたしは何かに怯え、何を怖がるのだろう。
力いっぱい握り締めた手に、新が優しく触れた。
“がんばれ”
口パクで、そういってくれた。
誰かの少しの勇気が、きっと何かを変えていく。
誰かの小さな勇気が、きっと何かを変えていく。
あたしの小さな勇気が、きっかけになることを願って・・・・・。
「あたしたちもハジメと同じだよ。だって、島田を助けようとしなかった。見て見ぬふりをしてきた」
痛がる島田を。ただ見てた。
関係ないと、知らないと、そんな顔さえした。
あたしの言ったことに、周りは神妙にうつむく。
きっとみんなわかっていること。
だけど、向き合う勇気がなかったんだ。
「当たり前になっちゃいけなかったんだよ。ちゃんと、戦わなきゃいけなかったの」
小さな物音を立てて、島田が立ち上がる。
「謝ろう。許してもらえないかもしれないけど、先生に、謝ろうよ」
触れられた手から、新の勇気が伝わる。
「ごめんなさい」
あたしは頭を下げながら、泣いていた。
ポタポタと、机に落ちる雫だち。
「ごめんなさい」
大きな声で、新が言った。
彼は昨日この事実を知って、今日自ら動いたのに。
何も悪くないのに、あたしなんかよりも大きな声で、島田に謝った。
あっという間に教室中の生徒が立ち上がり、頭を下げ謝りだした。
島田は無言でそれを見ていたが、その顔は終始穏やかだった。
島田は優しく、そしてとても強い人だった。