「明日から大変だね」
並んで歩くあたしに、陽菜が言った。
「あたしやりたくないよ・・・。島田が可哀想。陽菜どうする?」
「どうするって、やるしかないでしょ?」
「そうかもしれないけど・・・。だけど・・・」
「やらなきゃやられるんだよ?島田になりたいの?」
彼女は強く言う。
“島田になりたいの?”
答えは簡単だ。
“島田にはなりたくない”
「島田にはなりたくない・・・」
あたしは小さな声で呟いた。
「自分を守るためだもん。しかたないって思うしかないよ」
「うん・・・。そうだね・・・」
ポツポツと雨が降り出して、あたしたちの肩を雨が濡らす。
それなのに足が重くて、早く歩くことも、走ることもしなかった。
空が泣いていた。
島田へのイジメがどれだけ悪いことで、最低なことだと気づいていなが正当化するあたしたちに対して、空が涙を流していたんだ。
あたしが好きなのは、澄んだ鮮やかなブルーの空だったのに。
目覚めなければ朝はこないのに、あたしたちは当たり前のように目を覚まし、当たり前にこの日も登校している。
これから起こる出来事を、ある程度理解しながらも、止められないでいる。
無力でちっぽけな自分たち。
あたしは席に座り、空を眺めて楽しいことを想像する。
想像や妄想のなかでは、みんな幸せに笑っている。
島田もハジメもみんな楽しそうだ。
「やましたぁぁぁ」
響き渡るハジメの声。
現実世界に引き戻される。
どうするの?山下君。
あたしを始め、視線が山下君に集中する。
「・・・はい」
小さく返事をした山下君は掛けていた眼鏡を机に置くと、力無く歩きだす。
青白い顔をして、うつむきながら歩く姿は生気を感じられない。
「山下君。わかってるかな?」
ハジメのわざとらしい、“君”づけ。
「昨日言ったこと覚えてるよね?」
ハジメはニヤニヤ笑いながら、山下君の肩に手を回す。
「はい。覚えてます」
少し震えた声がかすかに聞こえた。
“やるしかない”
山下君の目が、そう言っていた。
小動物のように丸まっていた島田を、ハジメの仲間たちが無理やり立たせる。
「うわぁぁぁぁ」
叫び声とともに、山下君の足が島田のお腹に食い込んだ。
苦痛に歪む島田。
血走った目で島田を蹴った山下君。
傍観者のあたし・・・――。
みんなおかしいよ。狂ってるよ。
「はーい。よくできましたー!皆さん拍手~」
ハジメの声が響いて、まばらに聞こえだす拍手。
「ちいさ~い」
パチパチパチ
あたしにはできなかった。
手を叩くことも、この恐ろしい現実を止めることも。
誰も、何も言えない。
こんなこと、間違ってるよね?
“自分がやられるのがコワイ”
あたしたちは恐怖に負けて、大事なことを見失ってしまっていたんだ。