お隣さまは放課後プリンス | *.・・Another Sky・・.*

*.・・Another Sky・・.*

写真が好きなので
時々写真を載せたりします♪

だいたいは日常のこと、恋のことなどを書いてます

よろしくでーす☆

「あっ・・・・・・」

---------------------------------

飛んだのは、うちで飼っているトラネコのグリコだった。


グリコは軽い身のこなしで木の枝に着地すると、その勢いを保ったまま、向かいの窓へと飛び移った。


「あ、ネコ」


意外にも橘 アキが好反応をみせる。


「名前は?」


「え・・・・・グリコだけど・・・・」


「すげぇネーミング」


ふ、とかすかに笑みを浮かべて、橘 アキはグリコを抱き上げた。


そして、毛並みに沿って優しく手を滑らせ始める。


・・・・・動物をかわいがる心なんて持ってたんだ、コイツ。


てゆーか、窓、閉められなくなっちゃったじゃねーか。


なんか知んないけど、グリコもちゃっかり気持ちよさそうに抱かれてるし・・・。


「ネコ、好きなの?」


間がもたないから、しかたなく質問してみた。


「ん。てか動物全部好き。猫とか犬とかツチノコとか。」


なんでそこでツチノコが出てくるんだ?


ゴロゴロ・・・と喉を鳴らし始めたグリコを、橘 アキは慈しむようになでてあげている。


なんだよ、その優しい顔。調子狂うじゃん・・・・・・。


「・・・そういや、さ。今までその部屋、窓が開いてんの見たことなかったんだけど・・・」


ひそかに気になっていたことを尋ねると、橘 アキはグリコをなでながら淡々と答えた。


「ずっと物置だったんだ、ここ。でも広いから、先週から俺の部屋にしてもらった」


そうだったんだ。だから、今まで顔を合わす機会がなかったわけか。


「てか・・・あんたって、オニ高生だったんだね」


「うん」


「歳、あたしより上だよね?他の高校中退したとか?」


・・・・あれ。あたし、なんでこんなことまで質問してんだろう。べつにコイツのことなんか、知る必要ないのに。


「こっち引っ越してくる前、神奈川の高校いってた。そこで2年ダブって、中退」


2年ダブって・・・・ってことは、今19歳くらいか。つーか、2回も留年するとか何者だよ。


「ふ~ん・・・・・。じゃぁ、んたの彼女は相当寂しかっただろうね」


「は?」


「中退したあげく引っ越したんじゃ、完全に離れ離れだもんなぁ」


なぜかあたしは、わざとそんな意地悪を言った。


すると橘 アキは、腕の中のグリコに視線をおとしたまま、まるでなにかに思いを馳せるように、ふっと微笑んでつぶやいた。


「そんなの、いねーし」


湿気を帯びた夜風が、あたしたちの間の木を揺らす。ざわざわ、ざわざわと。


その音が胸の奥まで響いて、なぜだろう、あたしは言葉を返せなくなった。


5月の夜はまだ肌寒い。体が冷えたのか、橘 アキは突然「くしゅっ」と男とは思えないかわいいクシャミをした。


「乙女か!」


クシャミのおかげで空気がなごみ、調子を取り戻したあたしは憎まれ口を叩く。


彼がズズッと鼻をすすりながら、グリコを抱く腕をゆるめると、グリコはさっきのように木を中継地点にして、こちらの窓にとんだ。


グリコが戻ってきたってことは、つまりもう、窓を開ける必要はないってことで。


「・・・・えっと。じゃあ」


おやすみ、と蚊の鳴くような声で言って、あたしは窓に手をかけた。


橘 アキも「ん」といって、同じ動作をみせる。


だけど、なぜかあたしは、すぐに窓をしめることができなかった。


なんだ?どうしたんだ、あたし。


ビミョウに、名残惜しい・・・・・・みたいな。この変な気持ちは。


自分の感情にとまどいながら、あたしは4メートル先の、アキの顔を見つめた。


形のいい目や鼻や唇。色素の薄い肌。


あぁ、悔しいけどやっぱりコイツって、本当にキレイな顔――・・・。


「――キレイだったよな」


え?


「こないだの、虹」


すーっと閉じていく窓のむこうに、虹よりキレイな微笑みがみえた。


あたしの足元で、グリコが「にゃあ」と高く鳴いた。