印象派をモネ、ルノワール、ドガ、モリゾ、といった各々の画家たちの人生に焦点を当てながら解説。日本ではなんとなく、「綺麗ねえ」「ほら、ちょっと離れてみるといいんだよ」ぐらいに理解されて、それが当時なぜあれほど批判されたのかわかりにくい印象派だが、それがいかに「革命的」であったのか解説していく。

 

ところで、最近Twitterで話題になっている「5分でわかれ!印象派」というとても面白い漫画があるが、そこで紹介される画家たちの面白エピソードは基本的にここに載っているように思うから、漫画を書くときにこれをかなり元にしているように思われる(もちろん他の研究書もかなり勉強されたと思われる本格派です)

 

 

ともあれ、木村本の面白いところは、各々の作家たちの社会階層と性格をかなり明確に提示して(ルノワール以外は基本ブルジョワ、マネはすごい金持ち、モネは金たかり、バジールはやさしい、嫌味だけど育ちの良さが隠せないドガ)、覚えやすくしてくれているところ。なるほどルノワールの女たちがあんなにふくよかなのは労働者階級的な理想が反映されているのか(ブルジョワにとってはあまりに肉感的)、とかルノワールの『ムーランドラギャレットの舞踏会』って普通に楽しげな舞踏会の絵だと思っていたけれども、もしブルジョワ画家が書いていたら、もっと皮肉っぽくなっていただろうとか(あれは「労働者」の楽しい休日なんだね、普通にお洒落に見えるけど)、なるほどなるほど。

あと、自分は古典的伝統にのっとった作品を描いていると思い込んで自分の作品の革新性に無自覚なマネとか(だから印象派展には参加せずサロンでの評価を求め続ける)。「印象主義」的画家ではないけど、サロンへの敵視に関しては人一番だったから、「印象派展に出品する人はサロンに出すべからず」ってルールを強行に主張するドガ(そして「風景画」として印象派が打ち出される時には、ドガ系の画家(「現代生活」をテーマにするラファエリ)とかは排除される)とか。とにかく、明確に、・・・といえば・・・、と印象に残る解説をしてくれる。

 

 ただ読んでいる時にところどころ、引っかかるところがあって、巻末の参考文献一覧を読んだ時にその理由が分かったように思った。著者はアメリカで西洋美術を勉強した人なので、英語で19世紀フランスの印象派を学んでいる。だからなのかは分からないが、例えば19世紀パリの変遷に関するページ(p. 95)なんかはかなり間違っている。何を参照したのかは分からないが、本書では19世紀初めのパリの人口が30〜40万といっているが、実際には1801年のパリの人口は54万人とされる(国勢調査による、ルイ・シュヴァリエの本に載っている)。そして「街を取り囲んでいた城壁が取り壊され」とあるが、1860年に壊されたのは城壁ではなく徴税人の壁だ(これはよく勘違いされるので仕方ないだろうが)。

 おそらくだが、本書は学者による学術的入門書というよりも、西洋美術の一般向け解説を得意とする著者による概説本なのだと思うので(この分野については詳しくないが)、例えば卒論などで引用する時にはそこにちょっと注意しておいたらいいかもしれない。とはいえ、全般的にはとても面白く読んだし、多少の瑕疵を補って余りある魅力のある本だと思う。