気付けば、結構なボリュームになってしまいました。
 興味のある方は、暫しお付き合い下さい。






 香港でも、民主主義を死守せんとばかりに大規模デモが行われた。

返還15年40万人デモ 香港「2制度」堅持求める

2012年7月2日 朝刊



オオルリのブログ 【香港=今村太郎】香港が一九九七年に中国へと返還されてから十五年となった一日、香港中心部で、中国の民主化や一国二制度の堅持を求めるデモがあった。同日行われた式典で、胡錦濤国家主席は「(今後も)『二制度』を尊重する」と呼び掛けた。

 デモは香港の民主派市民団体が毎年実施。経済力を背景に影響を強める中国本土への反発も手伝い、主催者発表では、昨年(二十二万人)の二倍近い四十万人が参加した。

 デモ参加者は、行政長官の直接選挙を求めて「一人一票を」と書かれた旗や、不審死した中国湖南省の人権活動家、李旺陽氏の死因究明を求めるプラカードを掲げて市中心部の大通りを行進した。

 中国共産党は秋の最高指導部人事を前に情勢安定を重視し、民主化の動きへの抑圧を強めている。デモに参加した市民の一人は「中国の民主化は後退しており、香港の高度な自治も骨抜きにされる恐れが強い」と危機感を口にした。

 胡主席は式典で「十五年で一国二制度は揺るぎないものになった」と成果を強調してみせた。この日、香港の新行政長官に就任した梁振英(C・Y・リョン)氏には、直接選挙の導入など、今後の一国二制度の在り方を左右する重要課題が待ち受ける。


↓元記事 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2012070202000096.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter







 この報道だけでは、比較的平穏なデモだったように勘違いしそうですが・・・






 映像でご覧下さい。


 15周年式典には、胡錦濤主席が現地入りし、スピーチが予定されていました。

↓YouTUBE 『 胡錦涛主席香港入り 大規模抗議が待ち構える 』

http://youtu.be/kiMqrmedjbs


 デモ直前に、胡主席暗殺の風聞が流れ、香港中が緊張状態になったそうです。


↓YouTUBE 『 胡主席暗殺の風聞に緊張が走る香港 』

http://youtu.be/8NHwwB3uR88

 40万人(少なくとも数万人から)参加しており、色々な動きが水面下で起きたのでしょう。






 日本でもそうですが、大規模デモになると主義主張は微妙に分散します。
 
 首相官邸前の大飯原発再稼働反対デモでは、実は東芝・日立などの原発関連企業の不買運動デモなども存在しました。
 (勿論、日本のメディアは総スルーだったそうですが・・・)

 この香港で起きたデモは、かなり複雑な事情を抱えているようです。






 香港でのデモですが、よく考えてみて下さい。

 香港は面積としては、非常に狭い特別区です。
 デモに40万人参加?
 
 果たして、日本で置き換えるとどのぐらいの規模になるのでしょうか?
 検証してみます。


<40万人? 香港では、どのぐらいの規模なのか?>


 まず、40万人という規模を鵜呑みにして考えてます。

 香港の人口は、約700万人。

オオルリのブログ
表1 : 香港の人口 706万8千人 (2010年 「世界銀行」 調べ)


 ざっくり計算で、香港の住人約18人に1人がデモに参加したことになります。

 日本で18人に1人が、デモに参加するとどうなるのでしょうか?
 日本の人口は、春先に報道されました。


日本の人口、過去最大の25万9000人減 昨年10月時点

2012.4.17 15:40 [家族・少子高齢化]

 総務省が17日発表した2011年10月1日時点の人口推計によると、日本人と外国人を合わせた総人口は1億2779万9000人となった。前年より25万9000人(0・2%)減少し、落ち込み幅は1950年以降の統計で最大。福島県の人口は1・93%減で、都道府県別として過去最高の減少率となった。

 総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、前年比0・3ポイント増の23・3%で、過去最高を更新。世界で比較しても、ドイツ(20・6%)やイタリア(20・3%)を引き離し、引き続き最高水準となっている。


↓元記事 MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120417/trd12041715420008-n1.htm



 この記事から、大体1億2800万人になっています。
 香港と同じ参加率で考えると、日本で700万人超のデモが起きたことに匹敵します。
 これは、恐らく60年安保闘争を超える数になるだろうと推測できます。

 つまり、一言で言うと、これは香港でとんでもない規模のデモが起きていることになります。




<香港で何が起きているのか?>


 これは推測ですが、香港のデモ参加者の中には”2制度堅持”などと言われても、さっぱり分からない人も数多く参加しているはずです。

 そうなると、報道されない香港市民の本音は、”生活が苦しい! 何とかしろよ!!!”が、最も妥当な本音ではないかと・・・?
 これは香港に限らず、アラブの春でも日本の報道では語られることが無かった真実です。


 小麦価格とアラブの春の関係は、こちらで記事にしています。
 
 【関連記事】: 米国金融崩壊の前兆か? その3 反ウォールストリート・デモを操る人物


 一部の報道によると、香港の貧困層は2010年に過去最大を更新したと報じられたそうです。
 (報道では128万人、ざっくり約6人に1人が貧困層になります。)

 少々難しい話になるかもしれませんが、日経BPでやはり香港の所得格差拡大に関して記事が出ていました。
 直接、香港で起きたデモのことが書かれていませんが、香港デモの本質を突く話になるはずです。


 先にジニ係数を、簡単に説明しておきます。
家庭の生活水準を測る目安にエンゲル係数があるのですが、社会全体(経済全体)でも色々な係数があります。

 その中で、一番利用されているのが、このジニ係数です。

 計算方法は、実は非常に複雑な為に、色々な機関から結果だけが公表されています。
 数値は、0.0~1.0で表され、0.0が全く不公平の無い社会になります。
 反対に、1.0は富裕層の完全独占支配が確定します。
 (一般的に、1.0になる前に国が崩壊していると考えられています)
 
 日本のジニ係数は厚労省より発表されています。
 (最終発表は、平成20年)
 
 ↓厚生労働省 平成20年 所得再分配調査報告書<PDFファイル>
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000nmrn-att/2r9852000000nmvb.pdf

 上記のPDFファイルによると、平成20年のジニ係数は 0.3758になります。


 ジニ係数は、所得格差(貧富の開き)を知る目安となりますが、同時に国内の政情不安度を知る目安でもあります。ジニ係数が0.4を超えた国や地域は、社会騒乱(デモ・暴動・テロ・犯罪率の急上昇など)が起きる目安とされています。
 世界的に、0.4を超える国や地域が増加しており、特に東アジアは酷い為に日経BPで記事にされています。

 平成20年現在、日本のジニ係数は0.3758で、消費税増税により更に格差が広がるとの見方を示す専門家も存在します。

 注意したい点は、0.4を超えると必ず社会騒乱が起きるわけではありません。
 逆に、0.4を超えなくとも0.4に近づけば社会騒乱が起きても不思議ではありません。
 
 現実的に日本のジニ係数は0.3758なわけですから、ジニ係数で考えると社会騒乱へ待ったなしの状態であることが覗えます。


     ◇   ◆   ◇


 長い前置きになりましたが、日経BPによる香港のジニ係数悪化に関する記事です。

政治総崩れのアジア、貧富格差拡大の試練

 香港の行政トップ、行政長官を7年間務めた曽蔭権(ドナルド・ツァン)氏は6月末の退任を前に、自らの過ちを認めた。1つが「貧富の格差拡大」だ。

 所得格差を示すジニ係数で、香港は直近の統計で0.54を記録。ジニ係数が0.4を上回ると社会不安が起こる危険水域にあるとされる。

オオルリのブログ もともと香港は収入格差が大きく、ジニ係数は世界でも最も高い部類に入る地域だ。問題は、経済成長の中でもそれが悪化していることにある。中国の経済成長に牽引される形で好景気を謳歌してきたが、貧困層の拡大、物価上昇による生活苦などの社会問題は深刻さを増している。

 経済運営への不満もあり、最近の世論調査では、ツァン氏への支持率は2割以下にまで低下した。7月に就任する梁振英(C.Y.リョン)次期行政長官の支持率も私生活のスキャンダルなどで就任前から低下傾向にある。

 アジアを見渡すと、この「政治不信」が局地的な問題ではなく、共通する構図として横たわっていることが分かる。足元では減速感が出ているとはいえ、アジア各国ではGDP(国内総生産)は拡大を続け、1人当たり所得も伸びている。それなのに、政治への不信感は強く、総崩れと言っていい状況だ。

 際立つのがインドだ。6月末、インドでは連立政権与党の統一進歩同盟(UPA)の政策に反対するデモが全土で広がった。野党インド人民党(BJP)が主導し、石油製品の値上げなど与党の政策に抗議する労働者などが呼応した形だ。インドでは相次ぐ汚職問題に加え、食品や石油製品のインフレと、電力や水の不足が次々に顕在化、それが国民の不満に火をつけている。


シンガポールも移民に不満噴出

 アジアの中でも勝ち組とされ、その成長モデルが称賛されることも多いシンガポール。ここでも、移民政策などを巡って不信感が広がっている。

 同国は全国民の3分の1が外国人で、積極的に移民を呼び寄せることを成長戦略の柱に据えてきた。一方で、それが所得格差や住宅価格の高騰を生み、庶民の反発も膨らんでいる。この5月、高級スポーツカーに乗った中国人富裕層が無謀な運転で交通事故を起こし、日本人を含む複数の死者を出したことで議論が活発化。昨年来、国政選挙や地方選挙では与党の支持は低落傾向にあり、今後は移民政策の修正も予想されている。

 そのほか、台湾やマレーシア、インドネシアでも政権与党の支持率は低下傾向にある。直近のインフレや石油製品の値上げなどが直接的な原因だが、共通するのは格差の拡大である。

 一方、中国は内部の権力闘争はあるにしても、国民の不満が表面化しにくいだけに政治体制が大きく揺さぶられることは考えにくい。そのほか、共産党の一党支配体制のベトナムや、フン・セン首相の人気が高いカンボジアなど、政治基盤が強固な国はむしろ少数派となっている。

 振り返れば、21世紀に入っての「アジアの世紀」は政治的な安定がその土台にあった。フィリピンやインドネシアなど最近注目を集めている国も、かつては不安定な政治からインフラ整備や外資誘致が進まず、ほかのアジア諸国から立ち遅れた過去がある。

 米大統領選、中国の新体制発足が予定されている2012年は「政治の年」とされる。アジアの多くの国にとってみても、現状の混乱から抜け出せるかどうか、試練の年となりそうだ。

日経ビジネス2012年7月2日号120ページ
-政治総崩れのアジア、貧富格差拡大の試練- より


↓元記事 日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120628/233888/?top_updt&rt=nocnt


 香港を中心とした、アジアのジニ係数の話ですが、不思議なことに日本のジニ係数には触れていません。
 少なくとも、アジアの括りで考えれば、日本も他人事ではありません。

 香港のジニ係数は、0.54で注意ゾーンと考えられる0.4を大きく上回っています。
 今回のデモはガス抜きの役割もあるでしょうが、生活が改善されない限り、長続きはしないでしょう。






 難しい話過ぎて分からない・・・ とお嘆きの諸氏は、香港で急激に貧困層が拡大している と覚えておいて下さい。
 
 生活が苦し過ぎる関係で、香港で凄い数の市民デモが沸き起こった。
 庶民の怒りの対象は、香港当局ではなく中国に対して向けられた・・・
 
 どうでしょうか? こちらの方が考え方としてもスッキリすると思われます。






 最後に、世界のジニ係数マップをご覧下さい。

 世界が危機的状況に突入しているのが、一目瞭然です。

オオルリのブログ
写真1 : 世界のジニ係数マップ(2009年 CIA発表)

 ギリシャ問題で過剰報道されているEUですが、実は、ジニ係数からはまだまだ余裕があります。

 反対に深刻度が報道されにくいのが、米国・中国・南米です。
 米国は、民間医療保険に約6人に1人が加入出来ていません。相変わらず貧困層が拡大しています。

 日本も0.4超えの予備軍であることが分かります。
 
 これらの情報を頭に入ってしまうと、日本の報道が所得格差に触れないように報道されている事実が見えてきます。






 今の日本も、民主主義とは程遠い状況ですが。

 このままでは、いづれ、大飯原発反対デモのような世界が呆れるほど大人し過ぎるデモばかりとは・・・。


 最後の最後に、毎年フォーブス誌から日本の長者番付が発表されています。

 どのような業種や人物が所得格差を広げているのか、ご参考にして下さい。

 【関連記事】: 2012年フォーブス誌 日本の長者番付・上位40位