何やら急速に反ウォールストリート運動が世界的に広がっているのだが(参加者は全米ほど大規模でも無い模様)、元々はアラブ諸国の民主化デモから強い影響を受けている。

 民主化デモが成功したかのように報道されたエジプトを中心としたアラブ諸国。
 その良いイメージだけを引きずって、デモを期待するなら大きな間違いだ。

 反ウォールストリートデモが過激化するとどうなるのだろうか?
 そこで参考になる部分が見えるはずだと思い、私なりにエジプトの現状を纏めてみた。

 そして、見えてくる事実は・・・。






 報道に対して受け身の人達は、エジプトの民主化デモが成功した との報道で終わっている感じがする。
 しかし、現在は軍が暫定的にエジプトを統治しており、状況はデモ前よりも悲惨になっている。

 更に踏み込むと、現在までの結果だけ見れば、間接的に軍事クーデターに成功したように見えてしまう。


ムバラク前エジプト大統領、初公判で無罪主張

2011年 8月 4日 6:32 JST

オオルリのブログ 【カイロ】エジプトの反政府デモにより今年2月に辞任したムバラク前大統領(83)の初公判が3日、カイロで行われた。反政府デモ参加者を殺害した罪などに問われたムバラク被告は宣誓証言をするため移動ベッドに横たわって出廷した。今回の裁判は同国の現軍事政権にとって政治的リスクを伴うものとなりそうだ。

 ムバラク被告は、反政府デモに参加した「罪なき人々を可能な限り多く殺害しようとした」という主席検察官の告発を無表情で聞いていた。そして、その後にマイクを向けられると、しっかりした口調で無罪を主張した。

 3日の公判は、被告弁護人が現在の同国最高権力者であるタンタウィ軍評議会議長など約1600人の証言を求めるという予想外の展開となった。

 被告弁護人はムバラク政権下で国防相を務めたタンタウィ議長について、陸軍部隊がカイロ市内に配置された1月28日以来、実質的に同国を「管理した」として、同議長からの証言を得るべきであると主張した。

 ムバラク被告が正式に退陣したのは、多くの死傷者が出た衝突から2週間経った2月11日。軍部はその時点で、傍観的な立場を取り、反政府デモ参加者に対して発砲といった敵対行動を控えていた。

 現軍事政権は当初、1973年のイスラエルとの戦争で同国空軍司令官として活躍し国民的英雄となったムバラク前大統領の裁判には消極的だった。しかし、民衆の要求に屈した形で裁判が開始した。陸軍指導部はムバラク被告が選任したメンバーで構成されている。その上、被告弁護団が反政府運動に対する軍部の役割を追及する戦略を取れば、同国の民主化移行を進める役割を担うタンタウィ議長やその他の軍事指導者にとって都合の悪い展開になる可能性もある。

 同国の国立防衛大学の教授で、教え子に軍高官も多いポール・サリバン氏は「エジプトの状況は非常に流動的であり、危険な段階にある。今回の裁判によってエジプトが予想外の方向に進む可能性もある」と指摘した。被告弁護団の現政権非難は「いろいろな尾ひれがついた風評として、急速に広まる可能性もある。そうなった場合、タンタウィ議長は何らかの方法で非難に反論しなければならない状況に追い込まれるだろう」とサリバン氏は見ている。

 ムバラク被告は殺人罪のほか、イスラエルに天然ガスを売り渡したことで国益を損ねたなどとして汚職および背任の罪にも問われている。同被告の弁護人は、提出証拠を検討するために訴訟手続きを遅らせるよう要求するともに、アドリ元内相の裁判を切り離すことも求めた。また、この日の公判では同被告の長男と次男も被告として出廷し、無罪を主張した。次の公判は8月15日に予定されている。


↓元記事 MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110803/mds11080320450003-n1.htm



報道内容はともかく、前ムバラク大統領の裁判中継の参考映像として、どうぞ。

↓YouTUBE 『 Mubarak trial continues 』

http://youtu.be/A9zM8sAMFeM

※ページ最下段に、アラビア語による前ムバラク大統領の裁判のライブ映像を掲載しておきます。






この記事だけだと軍事政権になっていると分り難い。
しかし、デモ参加者に関する軍事裁判になると一変する。






The Egyptian people's revolution is being hijacked by the army
エジプトの市民革命は、”軍”に乗っ取られた


Torture, emergency laws, mass arrests and delayed elections: this is what Egypt's generals mean by protecting democracy
拷問、緊急時特別法、大量検挙と遅延する選挙: これがエジプト司令官が民主主義を保護する為の名目だ

Soumaya Ghannoushi
guardian.co.uk, Monday 26 September 2011 19.30 BST

<一部抜粋>

The honeymoon between military and protesters did not last long. Tahrir Square, once the scene of wild celebrations, turned into a battlefield as the army moved to disperse activists beating them with clubs and electric rods, and even firing live ammunition, leading to many casualties. Hundreds have been thrown in jail. Between 28 January and 29 August, almost 12,000 civilians were tried in military tribunals -- far more than Mubarak managed in 30 years of dictatorship. Torture by police and military personnel remains widespread, with hundreds of reports of beatings, electrocution, and even sexual assault.
軍と抗議デモ参加者達とのハネムーンは、長くは続かなかった。タハリール広場(嘗ては荒々しい祝賀シーンもあった)は、こん棒や電気ロッド(スタンガンの杖状タイプ)を持った軍人達が活動家たちを蹴散らす為に動員され、さながら戦場の様相を呈した。時には、実弾を用いて多くの死傷者を生み出している。数多くの人間が投獄された。1月28日から8月29日の間に、約1万2000人の市民達が軍事法廷で裁かれた。これは、ムバラク独裁政権の30年間を遥かに上回る(※1)。警官と軍人による拷問は、数百に及ぶ鞭打ち、電気ショック、強姦すらも広範囲で報告されている。
<拙訳:オオルリ@卍解>


※1 ムバラク政権における軍事裁判は、市民を被告対象とした法廷記録からは30年間で延べ2000人だったと報告されている。数字だけ見れば、ムバラク政権時よりも独裁制が強い政治だとも言える。


↓元記事 英紙ガーディアン(英文)
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/libertycentral/2011/sep/26/egyptian-revolution-army


 何とも筆舌に尽くし難い内容になっている。本当に訳が合っているのか?と疑いたくなる・・・。
 全て訳しても良いかもしれないが、編集に時間が掛かり過ぎるのと、重要なのは上記のセンテンスだと判断しました。

 後はエジプト内部の組織的な話になるので、他の日本語記事が同様の事を書いてくれている。






 日本の報道でも、ムバラク退陣まではどちらかと云うと平和的な話が先行していた。
 少なくとも、嘘では無い。最近で一番の緊張状態だったのはイスラエル大使館事件後だったとガーディアンの報道では書かれている。
 
 日本でも、イスラエル大使館にデモ隊が突入して死者が出た事が報道されたのだが、その後どうなったのか?詳しくは決して触れられない。

 最近では、海外の報道機関が日本語訳してくれている。
 AFP通信が、イスラエル大使館事件前後のエジプトをかなり詳しくレポートしてくれている。


エジプト、「ムバラク政権崩壊で軍政長期化」の矛盾

2011年09月23日 08:28 発信地:カイロ/エジプト

【9月23日 AFP】民主化を求める抗議行動によって、エジプトで30年に及んだムバラク政権が転覆するには18日しかかからなかったが、2月の同政権崩壊以降、暫定統治を行っているエジプト軍最高評議会と別れを告げるには、少なくとも18か月はかかりそうだ。

 エジプト軍最高評議会は今週、大統領選挙を実施するまでは権限移譲を行わないと発表した。示された日程によると、権限移譲は2012年8月以降ということになる。

 選挙委員会の委員長が示した計画では、3段階に分けた議会選が11月21日に始まり、1月3日に終了する。その後、上院選が1月22日に始まり、3月4日に終了する。

 この上院選の後に、ホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)前大統領の追放後、懸案になっていた改憲案の策定を改憲委員会が行う。この作業は半年を要し、軍最高評議会では、その後に新大統領を選ぶ選挙を実施するとしている。

 2月の民主化要求デモで機動隊や政権側の暴徒たちに立ち向かった大勢の勇敢な民衆のうち、ムバラク政権の崩壊が軍政の長期化を招くことになると予想した者は多くなかっただろう。

■各方面の思惑が絡んだプロセス遅延

 しかし、匿名のある軍高官は、ムハンマド・フセイン・タンタウィ(Muhammad Hussein Tantawi)氏が議長を務めるエジプト軍最高評議会だけが民主化プロセスの遅れについて責めを負うべきではないと主張した。「選挙を遅らせよという多くの要求があったし、治安情勢も安定していない」

 エジプトでは今も散発的に暴動が起こっている。9月に入ってからも、イスラエル大使館にデモ隊が乱入して警官隊と衝突し、死者が出る事態となった。また、警察自体、2月の民衆蜂起から立ち直っていない。

 先の軍高官によると、議会選と上院選を分けることは今月に入ってから決定されたことで、これにより権限移譲はさらに先送りされるが、これは同時選挙を行った場合の監視要員が足りないからという理由で、裁判官らから要請があったためという。
 
 権限移譲プロセスは、数々の活動家グループや政党によるさまざまな要求に悩まされてきたが、軍や実質的な暫定政権である軍最高評議会の反応によっても同じように攪乱されてきた。

 ムバラク追放を果たしたデモ参加者は、「ムバラクからタンタウィに入れ替わっただけじゃないか」とのスローガンを叫び、今度は軍最高評議会に対するデモを行っている。

 一方で世俗的な団体の多くは議会選の遅れを望んでいる。彼らよりも組織化され、資金力もあるイスラム団体が、議席をさらってしまうことを恐れているのだ。政界周辺が権限移譲に関する合意形成を回避している中、エジプトで最も組織化された団体であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)は早期の議会選実施を求めている。

 アル・アハラム政治戦略研究所(Al-Ahram Centre for Political and Strategic Studies)のアナリスト、ナビル・アブデル・ファタハ(Nabil Abdel Fatah)氏は言う。「対立し合う要求が存在している。権限移譲の明確なロードマップが欠如しているからだ」(c)AFP/Samer al-Atrush


↓元記事 AFPBB(AFP通信)
http://www.afpbb.com/article/politics/2829908/7744974?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics



 警察と云っても、エジプトでは表の警察と秘密警察がある。
 表の警察は施設も破壊され、政府が機能していない為に、体制を立て直す余裕も無い。

 一方で、秘密警察はどこの誰かも不明な上、普段は私服で街に溶け込んでいる。
 規模や予算も幾ら残っているのか?すら不明で、未だに暗躍していると囁かれている。

 秘密警察が軍と連動しているのか?定かでは無いが(恐らく連動している)、表の警察が機能を果たしていない以上、暴徒に対して軍が出てきても市民からは文句を言えない・・・。






 とにかく、独裁政権を打倒して民主主義に近づいたのか?と思えば、聞こえてくる報道は、寧ろ逆の状況になっている。
 軍事政権が暫定ながら維持し続けており、今後の選挙も予定は見えても現実的な候補者すら見えない。
 
 それで結局、夜間外出禁止令を始めとする戒厳令も敷かれ、緊急法案もスピード可決、即大量検挙と相成った。
 捕まった人間が、どうなっているのか?全く報道されなかったが、ガーディアンが書いてくれた。
 (詳しい事情は知らないが、以前からエジプトに関しては英紙ガーディアンがずば抜けた記事を書いている。エジプト情勢を知りたいならば、英紙ガーディアンをお勧めする。)
 ガーディアンの記事を信じなくても、ムバラク政権時より数段酷い状況だ。

 そして、ついにエジプト・コプト派(キリスト教の一派)のデモ隊と軍が衝突し、25人が死亡、負傷者200人以上の新たな惨事が発生する。
 こうなると、泥沼化してしまう恐れが濃厚だ。






エジプトのコプト教徒デモ弾圧、25人死亡で軍への怒り強まる

2011年 10月 11日 10:12 JST

オオルリのブログ [カイロ 10日 ロイター] エジプトの首都カイロで9日夜に治安部隊とキリスト教の一派コプト教徒らのデモ隊が衝突し、25人が死亡する事態に至ったことを受け、コプト教徒らの軍に対する怒りが増幅している。

 衝突はカイロの国営テレビ近くで発生し、軍は戦車をデモ隊に突進させるなどして弾圧。インターネット上に投稿されたビデオでは、損傷の激しい遺体が映し出された。活動家らの話によると、車輪で押しつぶされた人もいたという。

 エジプトではイスラム教徒とコプト教徒の間の緊張が長年続いていたが、ムバラク前大統領が退陣に追い込まれた政変以降、緊張がさらに高まっている。政権崩壊で、前大統領が抑圧してきたイスラム原理主義組織などの活動の自由が拡大したことも要因とみられている。

 デモ弾圧から一夜明けた10日には、数千人がカイロ市内をデモ行進。宗教の調和を呼び掛けるとともに、暫定統治を担う軍最高評議会のタンタウィ議長の解任を求めた。

 コプト教徒の1人は「ムスリム同胞団などが抗議デモを行った際、(軍は)なぜ同じことをしなかったのか。ここはもう私の国ではない」と怒りをぶつけた。

 一方、国営テレビによると、軍最高評議会は衝突の経緯を早急に調査する方針を示し、治安維持のために適切な処置を取ると表明した。


↓元記事
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-23559520111011



映像を見て頂ければ直に分るが、軍の車両がデモ隊に突っ込んできている。
最初から、穏便に済まそうとしていない。

↓YouTUBE 『 RAW: Egypt Copts in Deadly Clashes with Army 』

http://youtu.be/e-2ctdrEGMY
※DailyNews公式映像

↓YouTUBE 『 Video of deadly Egypt riots as Christians clash with police, Muslims 』

http://youtu.be/2-UQ9OCY9eA
※RussiaToday公式映像


 コプト教とは?具体的にどんな団体なのか?

コプト正教会 Wikipediaより抜粋

キリスト教・非カルケドン派(東方諸教会)の一つであり、エジプトで発展した教会。コプト教会とも。
尚、カトリック・コプト教会は東方典礼カトリック教会であって別の組織である。

ニカイア・コンスタンティノポリス信条を告白し、マリアを神の母として崇敬する。『マタイによる福音書』に聖家族のエジプト逃避の記事が有ることから、コプト教会に於けるマリア崇敬は極めて盛んである。


↓Wikipedia コプト正教会
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%97%E3%83%88%E6%AD%A3%E6%95%99%E4%BC%9A


 極端に分り易く解説すると、上記の記事はエジプトのキリスト系住民が軍最高評議会のタンタウィ議長の解任要求デモを起こしたら、エジプト軍が軍用車を突入させたので衝突に発展した。
 (エジプトにおける、イスラム系住民は9割と言われている。)

 これは日本でも報道されたのだが、非常にまずい話になっている。
 コプト派のデモを叩き潰したのが、イスラム教のデモ隊と軍が共同でやったと報道されている。
 (秘密警察が私服でやったのかもしれないが、世界的な報道はほぼそうなっている。)

 コプト派は歴史的にも古く、キリスト教内部でも捨てておけない話になるだろう。
 リビアに続いて、エジプトにも国連軍が介入する可能性も見えてくる。






 民主化を信じて動いた人間にしたら、こうなると哀れだ。
 追い出すべきは、ムバラクよりも軍と政府に巣食う腐った連中が真犯人なのに、そこに失敗した。

 寡頭支配者達は反抗した勢力には、徹底的な制裁を加える。失脚 = 死 が見えるからだ。
 エジプト内の腐った連中も、もう後戻り出来ないだろうし、腹は括っているはずだ。

 活動家のリーダー的存在は、大分刈り取られたように思う。
 代わりに大衆の怨念は凄まじい物になっているだろうし、さすがに馬鹿でも獅子身中の虫(獅子本体を食い殺す寄生虫)は見えただろう。
 どう転ぼうが、虫達が無事にエジプト国内で余生を過ごせるとは思えない。もう既にやり過ぎだ。

 結局、エジプト・リビアは彼らの予定通りに進んでいると見て良いだろう。
 両国はアラブ世界の牽引役であり、アフリカを代表する国々でもあった。






<参考映像: ムバラク前大統領の裁判 生中継映像>

※ライブ映像の為、全編アラビア語です。

↓YouTUBE 『 Mubarak.trial-of-habib.el-adly CD1.rmvb 』

http://youtu.be/d8FRWvkd2s8

↓YouTUBE 『 Mubarak.trial-of-habib.el-adly CD2.rmvb 』

http://youtu.be/Q7BSxhDiqIw

↓YouTUBE 『 Mubarak.trial-of-habib.el-adly CD3.rmvb 』

http://youtu.be/370-PE30F34

↓YouTUBE 『 Mubarak trial of habib el adly CD4 』

http://youtu.be/D5RjZCQFC2U