ヌマゲラディニオスは激怒した。
空に浮かぶ陽球の放つ、強く痛ましいほどの光が彼のその感情をより一層強くさせた。
数人の若い男たちによる、ヌマゲラディニオスに向けた悪意は、五臓六腑が盤石とはいえないヌマゲラディニオスに怒号をあげさせた。
「降りろ、コラ!」
引き裂けそうな小さな肺に大きく空気を溜め込み放ったその一声は、男たちに驚と狂を感じさせた。彼の声と共に放った小さな石は、一人の男の頭部をかすめ流血させた。男達はその場を走って立ち去った。
勝ったのだ。ヌマゲラディニオスは勝ったのだ。
勝った。それと同時に彼は守ったのだ。
”殆青”を
命の次、いやそれ以上なのかもしれない。
彼にとっての”殆青”は己の命より重いものであり、当然のごとく、他人の命よりも重いものなのだ。
彼は冷静さを取り戻し、いびつな形をした、冷えた岩に腰を下ろす。
どれ程の刻が経ったのだろう、彼はそっと首をあげ、”殆青”に視線を向けた。
彼は動いた。
まるで奥地のジャングルのように入り組んだ外観、そして城を彷彿とさせるような鋭い頭部が彼を無意識化で惹きつけたのだ。
彼は入り組んだ”殆青”にのめり込んでいった。
切れる息、今にも引き千切れげそうな細い腕で”殆青”を掴み高みを目指した。
その道は容易では無いことを彼は理解していた。
入りこんでいくうちに、訪れる四肢への痛み、頂に近づくにつれ、その痛みは猛威を振るいだし、彼の脛部は濃紫に変色し、腫れあがった。
慣れというものは恐ろしい。
彼はそれをモノともせず登り続ける。彼にとってそれほどの傷は当たり前なのだ。
だが、そんな彼にも耐えがたいことが起きた。
頂上まで残り僅かに迫った時、彼の腕に弛緩が起きたのだ。
筋繊維の酷使。
彼の筋繊維は限界を迎えていた。彼はのちに言う
「まるでジムやな。」
だが、人というものは奇妙だ。目標や喜びのためになると予想だにしない力を発揮する。
彼は再度”殆青”を掴み、頂上を目指した。
あと3歩、あと2歩、あと1歩と頂上が直前に迫った時、ヌマゲラディニオスはまるで大きな巨人にでも引っ張られたかのような感覚を味わう。彼は地面にたたき落され、腕を拘束された。
「うそだろ。」
憧れを直前にして、この仕打ち。彼は泣き叫んだ。「男は泣くな。」母によく言われた。
そんなのは関係ない。人生においてこれほどの屈辱はないのだ。
「黙れ、黙りなさい。」
彼の耳にはかすかなこの言葉が聞こえた。
だが今の彼にその注声を聴く余地はない。悔しすぎるのだ。自分の命よりも大切な憧れを手に取る寸前での理不尽な略奪。不条理極まりない。
彼のそれらの思いは略奪者には届くはずもない。
彼は略奪者に抱えられ、車に詰め込まれた。
「ウ~~」![]()
彼の30年近くの人生の中で初めて彼が手に仕掛けた憧れ。
これらは人の手によってこんなにもいとも簡単に奪われたしまったのだ。
だが、必ず”殆青”は次世代へ引き継がれていく。
そう願って止まない。