妊娠8週4日。

不妊治療クリニック、最後の通院日。


この日、無事に心拍確認ができたら卒業。


いつもは朝イチで向かうクリニック。

でもこの日はどうしても早い時間に出勤しなければならず、仕事終わりの夕方に受診することになった。


仕事中も、常につわり。

気持ち悪さの波に揺られながら、心の中で何度も唱える。


(大丈夫。おもちちゃんはちゃんと育ってる。)


そして、クリニックへ。


遡れば半年前。

思い切って転院してから、物事はあれよあれよと進んだ。


人工授精、そして体外受精。


採卵の痛みはもう忘れかけているけれど、

看護師さんが本当に優しかったことだけは、今でもはっきり覚えている。


あのとき、転院してよかったと心から思った。


そんなことを考えているうちに呼ばれて、

いよいよ最後の内診。


おもちちゃんは……


いる?かな。


あ、いた。


頭と体に分かれてる。

かわいい。


そして心臓の音。


前回、初めて聞いた「ドクドク」。

あの瞬間、うるうるした。


今回も……



あれ?


聞こえない。



「聞こえないねー」


一瞬で血の気が引く。


「ちょっと聞こえづらいかな。」


「大丈夫なんですか?!」


「でも大丈夫。ほら、ここ、ちゃんとチカチカなってるからね。」


画面には確かに、規則正しく光る命。


診察室を出たあとも不安は残っていて、

もう一度確認した。


「心音聞こえなかったんですけど、問題ないんですか?私、咳もすごくて……」


院長先生は即答だった。


「大丈夫ですよ。赤ちゃんはちゃんと育ってますからね。」


ふぅ……。


体の力が抜けた。


そして診察の最後。


「卒業、おめでとうございます。良い報告を待っています。」


寡黙な院長先生。

今まで笑顔も見たことがなかったのに。


最後に、笑顔で。


「卒業おめでとうございます。」


ギャップ、反則。


涙がにじんだ。


紹介状を受け取り、会計を終えた帰り際。


受付の方たちが、

周りに聞こえないくらい小さな声で


「ご卒業おめでとうございます」


その一言に、また泣きそうになった。


「ありがとうございます」


それしか言えなかった。


心の中でつぶやく。


(第2子、第3子を授かれたら、またよろしくお願いします。)


約1年間の不妊治療。


泣いた日も、不安で眠れなかった日も、

注射が怖かった日も、

全部ひっくるめて、今日で一区切り。


これにて、完。


そしてここからは、

おもちちゃんと一緒の新しい物語が始まる。