大宮妄想小説です
BL要素含みます
パラレルです
side O
玄関ドアが閉まり、二宮さんの儚げな後ろ姿が見えなくなって。
さっきまでうだうだ考えていたはずなのに、気づいたら二宮さんを追って玄関を飛び出していた。
エレベーターまでの長い通路を足早に歩いている二宮さんを追いかける。
後ろ姿で顔が見えなかったけれど、震える肩と腕で顔を拭っている姿を見て泣いている事に気づいた。
俺が泣かせた。
信じられないって言われた時の辛さを知っていたのに、俺は自分が傷つかないために同じ言葉で二宮さんを傷つけた。
グイッと手を引いて引き留める。
「えっ、智くん?」
涙でぼろぼろになった顔で驚く二宮さんを引っ張るように部屋に連れ戻して玄関ドアを閉めた。
「入ってください」
嫌だと言われてもそのまま強引に部屋の中へ連れて行こうと思って手を引いたら、二宮さんは慌てて靴を脱いだ。
ぐいぐいと引っ張ってリビングへ。
「最後の新作って、どうしてですか?」
理由が分からなくて、眉間に皺が寄ってしまった。
二宮さんが懐かしそうな顔をして、俺の眉間に触れようとしたけど、すぐにハッとして手を下げた。
ああ、良く皺を伸ばしてくれていたなと、俺も懐かしくて切ない気持ちになる。
「最後だよ……。
だって、もう作れないんだもん」
苦しそうに笑って二宮さんは言った。
「作れない?」
あんなに美味しいパンをたくさん作っていたのに、どうして作れないのかと首を傾げる。
「作ってあげたい人がいないと、作れないんだ」
その言葉で、前に二宮さんが言っていた言葉を思い出した。
店の厨房でパンを捏ねながら話した事があったんだ。
『パンを捏ねるのって大変ですよね』
『大変だけどね、最近は楽しくなってきたんだよね』
『えっ、どうしてですか?』
『作ってあげたい人の事を考えながら捏ねてるの。
美味しいパンを食べさせてあげたいなぁって。
その人の喜ぶ顔も想像してさ。
そうしたら楽しくなってくるしパンも美味しく出来るんだ』
『それって……』
『なーんてねっ、あ、ほら智くんも早く捏ねて』
二宮さんは、真っ赤になった顔を自分の手で扇ぎながら誤魔化してしまって。
すぐに訊こうとしたら、お父さんが来てしまったから訊けないままになってしまっていたけど……。
「それって、俺の事だと思って良いんですか?」
二宮さんの心の中を探るように、じっと瞳の奥を覗き込む。
その俺の視線をしっかりと受け止めながら二宮さんは言った。
「そ、だね。
信じてもらえないかもしれないけど、俺、智くんが本当に好きだった」
話しながら段々と表情が歪んでいって。
二宮さんは俺に背を向けた。
「ごめん、も、帰るね」
そう言った二宮さんの声は涙声だったんだ。
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