歯医者の帰り道、

 

 

カジェ・マドリードを歩いて

街の外れにある

少し大きめの

スーパーマーケットへ

海帆(みほ)

は向かっていた。

 

 

 

片側2車線のマドリード通りは

程よく大きく

旧市街と郊外の住宅地、

そして

幹線道路へと出れる様に

南北に真っすぐ通った道。

 

 

通りの中央分離帯には

街路樹が等間隔で植えられており、

 

 

スペイン公立カルロス三世大学も

あるせいか

バスの本数も比較的多い

交通量の多い雰囲氣を

和ませるかのように

きれいに紅葉し始めてきた。

 

 

歩道では

これから授業に出席するであろう

学生さんたちが

バスから雪崩の様に降りてきたり、

 

 

一人、

ウォークマン聴きながら

もくもくと歩く子や、

 

3,4人の女の子グループが

昨日あった出来事などをおしゃべりしながら歩いていたり、

 

課題なのか、

こちらも3,4人のグループになって

ビデオカメラとマイクを持って

街頭インタビューする練習している子たちもいたりして

 

 

通りじたいに

とても活氣がある。

 

 

 

いいな、この感じ

 

おもった。

 




 


昨日は氣がのらなくて

一日中

家でまったりしていたぶん、

 

 

 

肌で感じる温度や空氣感、

空の色、

街のざわめきや

匂い。

 

 

感じる事が

けっこうあって

幸せだなあと

信号待ちをしていた。

 

 

 

青になって歩き始めると

向こうからやってきた

市営バスが

停止線の随分手前で止まった時に

そのバスのスピードで

舞い上がった街路樹の葉が

わたしの足元にひらひらと

祝福してくれているみたいに

舞い降りて来た。

 

 

その葉たちは

子供の掌みたいに可愛く

星型で

みごとな紅葉だった。

 

 

紅葉紅葉紅葉紅葉 

わぁ、きれい!

 紅葉紅葉紅葉紅葉

 



 

 

足を止め、

わたしの元にやってきた一枚の

葉を優しく手に取る。

 

 

深紅色になるちょっと手前の

赤い色で

 

子供の頃

学校の先生がノートに押してくれた

 

『たいへんよくできました』

のハンコの色に

とても似ているし、

 

 

正々堂々

今まで

健氣に生きてきた証みたいな色

 

とも

感じられた。

 

 

 

 

今まで健氣に生きた証の葉の

軸のところを持って

葉を

竹トンボを飛ばす前に

くるくると回転させてみる。

 

 

そうしたら

子供の頃、

学校帰りに見つけた

とても氣に入った

黄色い銀杏の葉を

ランドセルに

お守りみたいに入れていたことを

想い出した。

 

 

 

子供のころから

葉っぱは大好き。

 

 

 

特に紅葉してゆく葉の

変化が

大好きで

 

 

鮮やかな色を身にまとい

輝き放ち、

だんだん色朽ち、

水分もなく、

触ると粉々になる枯れ葉に

親しみのある魅力を

感じる。

 

 

 

一枚として

同じ色、

同じ形の葉はない。

 

 

枯れ葉を踏むときの音も

靴の裏から感じられる感触も

大好きで、

 

 

大人になっても

わざわざ枯れ葉の多い公園や道をつい選んでしまうほど

大好き。

 

 





 

その小学校には

小学一年生の一年間だけ通った。

 

 

まだまだ真新しい赤色の

ランドセルを背負ってたわたしは

二つ年上の依里(より)姉、

そして

隣の家のアキお姉ちゃんと

アキ姉ちゃんの弟、

私と同じ年の洸ちゃんとの

四人で登校していた。

 

 

少し小高い丘の上にある

学校までの道のりは

自宅を出て

田んぼを横目に砂利道を通り、

 

二車線ある車道の横断歩道を渡る。

すると

右手に八雲神社がある。

 

 

当時の神社の境内には

ブランコや滑り台など

子供への誘惑半端ない

遊具がありよく遊んだし、

 

 

夏休み、

毎朝ラジオ体操しに

眠い目こすりながら

紐でぶら下げたラジオ体出席カードを首に下げて

皆勤賞とったらもらえる

お菓子目当てに

アキ姉ちゃん、洸ちゃん、

依里姉とみんなでここへ来てた。

 

 

神社を通り過ぎると

そこからは学校まで

田園風景に守られながらの

一本道なのだけど、

 

舗装されたばかりの

歩道は

今おもうと

昭和感の象徴みたいに

感じられるが、

かなりデコボコしていた。

 

そのデコボコは

晴れの日には

ただのデコボコなのだが、

雨がふると子供へのご褒美みたいな

程よく大きな水たまりに

大変身する。

 

そこへ

濡れない丈夫な最強アイテムである長靴を履き、

 

得意げになった子供のわたしは

その水たまりに

バシャーンって

勢いつけながら入るのが

たまらなく楽しかった。

 

 

学校自体は

すごく好きではなかったけれど

通学路には

歩いて発見できることが

たくさんあって

遊びの時間の延長みたいだった。

 

 

なにより

大好きな依里姉や

アキ姉ちゃん洸ちゃん

姉弟たちがいたから

安心しきって

給食を食べに

ピクニックへ行く感じだった。

 

 

 

登校の途中、

洸ちゃんが好きなや虫や

動物を見つけると

洸ちゃんは欲しくなってしまう。

 

 

洸ちゃんは

背負っていた黒いランドセルを

脱ぎ捨てるように

道端に置き

木に登ったり

その辺に落ちていた枝を棒にして

虫などをつついたりするから

 

 

アキ姉ちゃんと依里姉は

やめなよと注意する。

 

 

その日の朝は

連日の雨が上がり、

晴れていたとおもう。

 

 

晴れていても

まだ水たまりがあるだろうから

長靴を履いていこうとしていたら

 

母親に

『海帆、今日はもう

雨降らないからこっちの靴ね。』

 


と、

アキレスの運動靴に

履き替えさせられてしまった。

 

 

幾つもの水たまり通り過ぎるたび、

長靴は履いてくればバシャーンって

飛び込めたのにと

おもいつつも

 

わたしは

水たまりと戯れたかったから

靴が濡れないよう

慎重に水たまりのふちを踏んで

ぴちゃぴちゃと

水の音を感触を

楽しんだあと

 

少し先を歩いている

姉たちのところへ

走って行く。

 

 

水たまり、走る。

水たまり、走る。

 

 

ぴちゃぴちゃ、ダッシュ。

ぴちゃぴちゃ、ダッシュ

繰り返しながら学校へ向かう。

 

 

洸ちゃんはと言うと

田んぼの隅っこにいた

カエルに夢中になっていた。

 

雨が降って

水が恋しくなって

つい地面からでてきたのか

何匹かケロケロケロ~って

おしゃべりしている。

 

 

田んぼはもう稲刈りし終え、

まとまった藁は稲木干ししてある。

稲の軸のところは

亀の子たわしみたいになって

地面から顔を出していた。

 

 

ただ

連日の雨で田んぼの地面は

粘土質、

ぐちゃぐちゃとしていた。

 

 

『捕まえても学校には連れていけないからやめなよー。』

 

 

アキ姉ちゃんに怒られても

 

『ランドセルの中に入れるから~』

 

言って

獲るのを止めそうにない。

 

 

洸ちゃんがこうなると

アキ姉ちゃんや姉、

わたしは足を止め

洸ちゃんがゲットするまで

洸ちゃんをただ見守るしか

なかった。

 

 

わたしは洸ちゃんが

もし捕まえたカエルを

ランドセルに入れそうになったら

それも阻止しようと

考えながら。

 

 

もう少しで獲れそうなのか

さらに

前かがみになった瞬間

勢いあまってか、

わぁっと

短い雄叫びをあげながら

体勢のバランスを崩し

ぐちゃぐちゃ粘土の田んぼに

 

ドスン

 

突っ込んでしまった。

 

 

『落ちた~!』

 

 

これから学校に行くのに

洸ちゃんは

芸能人がテレビでやっている

罰ゲームみたいに

顔も服も泥だらけ。

 

 

いつもは笑顔の多い洸ちゃんも

えーん、えーんって

泣き叫び、

 

アキ姉ちゃん

依里姉、そしてわたしは

三人そろって

 

『わははは~』

 

 

洸ちゃんの氣持ちにおかまいなく

女の子3人は

お腹を抱えて大声で笑う。

 

 

アキ姉ちゃんは

 

『だから言ったじゃない!』

 

って

笑いながら怒り

そして

洸ちゃんをなだめながら

 

 

『お家へ戻って着替えさせてくるから

先に学校へ行ってて。』

 

と、

来た道を姉弟でちんどん屋さんみたいに

にぎやかに戻っていった。

 

 

 

幸い、

洸ちゃんの黒いランドセルは

わたしが見守っていたせいか

カエルの部屋にもならず、

泥も跳ねず。

 

 

姉とわたしは

洸ちゃんのランドセルを持ち

先に学校へと向かっていった。

 

 

 

 

 

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primero~第一章~ 

 

読んで下さってどうもありがとうございます。

 

凜打

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