手術前日の晩御飯の時、夫は苦虫を噛み潰したような表情で顔の前面に「カテーテルやだな〜〜!!!!!!」とはっきり書いてあった。無言で眉間にシワを寄せて暗い顔でモクモク食べる。

カテーテル手術は、これまで本人にとっては何度も受けていて慣れてるとはいっても気分がいいわけなく、早く終わってほしいという気持ちだったのだと思う。

 

私は1泊2日で返ってくる手術入院。これまで何度も受けてきた、いつものカテーテル手術。

今は気持ちも浮かないだろうし、無理はない。そっとしておこう。

明後日にはまた退院して戻ってきて、いつもの日常が戻ると思っていた。

 

そして夫は浮かない表情で早々に晩御飯を食べ終えて、そのままお風呂に直行。

子供はもう寝る準備万端で、寝かしつけの段階に入っていたが、寝る前に夫に抱っこしてもらいたかったようだ。

お風呂に向かう夫にパジャマ姿で追いかけていって「パパ〜抱っこ〜〜〜」とかけよったが、夫は暗い表情で子供の鼻先でドアをバタンと閉めて、お風呂にいってしまった。子煩悩な夫として珍しいことだった。

 

抱っこしてもらえなかった子供は「うわ〜ん!」と泣きながら私のところに戻ってきた。

私は「パパすぐ帰ってくるから、そしたら抱っこしてもらおうね」といって寝かしつけた。

残酷なことに子供にとって、意識のある父親と接することができたのは、これが最後だった。

 

翌日の手術当日の早朝、3歳の子供はまだ寝ていた。

コロナ禍で家族が病院に付き添うことはできず、自宅での待機となったため、夫は早めの朝食後に1人で自家用車で病院へ向かった。

私はそんな夫を玄関先で見送った。

いつもは「いってきます」とか軽くハグしてから行くが、この時も夫は浮かない顔でそっけなく私をほとんど見ることもなく玄関を出ていってしまった。

私にとっては、意識があって動いている夫の姿を見るのは、これが最後となった。

 

そっけなくてもいい。私は満足だった。きちんと朝ごはんを食べて、しっかり見送った。それで十分と思っていた。

手術が終わってLINEですぐ「終わりました」と連絡が来るはず。

そしてまたいつもの日常が戻ってくる。

夫の笑顔も戻ってくる。

 

しかし見送った後の一抹の不安。「虫の知らせ」とは良く聞くが、この時ほどこの「虫の知らせ」というものは、気のせいだとか馬鹿にしてはいけないのだと、後になって嫌というほど思い知った。