今日、コロナワクチン一回目の接種を、ようやく済ませた。
予約を取るのに苦労したのと、早く接種して周囲の人に追いつきたいのとがない混ぜになって、昨日の晩から「明日はワクチン」と妙に気分が高揚した。
そういえば「ワクチン」という単語は「ワクワク」と「ラクチン」が合わさったようで、楽しげな語感に思える。遠足待ちの子供のように「明日はワクチン」と考えたのも、あながち的外れでもなかったのかもしれない。
話を戻す。
コロナワクチン接種は、インフルエンザワクチン接種に比べ、やや痛みが強いように思えた。
筋肉に針が刺され、これで終わりかと思ったら、「痛くないですか」と念押しされて、そこからワクチン注入が始まるといった感じで、気のせいか、若干注射の時間も長かったような気がした。
接種後は20分程、状態観察エリアに座って副反応の様子を見たが、幸い何の変調もなかった。
受付から終了まで30分弱。滞りない流れの中で、唯一引っ掛かりを感じたのは、接種前の医師による予診だ。
「接種は初めてですか?」
「体に具合が悪いところはありますか?」
「質問したいことはありますか?」
はい、いいえ、とリズムで答えられるような簡単な質問の後、先生はこうおっしゃった。
「肥満はありますか?」
これはリズムでは答えられない。
- 医師だろうに、肥満かどうか見れば分かるだろう。
- 医師でなくても見れば分かるだろう。
- それでも聞くのか。
- 肥満は度合いの問題だろうに、あるか、ないかで聞かれても答えようがあるまいに。
頭の中をあれこれの考えが巡るが、問いただすよりここは、答えるべきだろう。
「あります。」
あなたはバカですか?と聞かれて、バカです、と答えたような屈辱感である。かといって、医師に向かって自分の肥満が「ない」と主張する程、無法者にもなれない。
「肥満があるとコロナの重症化リスクがあります。」
先生はおっしゃった。
言われなくても知っているが、肥満があると自己申告した後にそう言われると、何か、逃げ道を塞がれたようで、絶望的な気分にさせられる。肥満もコロナも自業自得と思わざるを得ない。
「BMIはいくつですか?」
先生は続けて問われた。
「29.8です。」
僕はやや得意気に答えた。
一年前は35を軽く上回っていたが、今は20台まで落としており、人間ドックの際も大変に褒められている。
毎日体重を測って、スマホアプリで変化を管理しているので、BMIも、聞かれれば即答できるのだ。
よく「デブは自己管理が出来ていない」と言われるが、それは誤りである。
僕は毎日体重を測り、完璧に自己管理している。残念ながら結果は相変わらずデブであるが、自己管理していないわけではないのである。
檻の中に閉じ込めて管理したからと言って、中のライオンがウサギに変わるわけではない。それと同じ理屈だ。
先生は言った。
「BMIを、28まで落としといてください。」
「?」
ハテナマークが浮かんだ。そうして何も答えられずに、そのまま予診は終わった。「落としといてください」とはどういうことだろう。
「BMIを、28まで落とすように頑張ってください。」
と言われれば、はい、と即答できるが、「落としといてください」は困る。
落としとくのは、
- いつまでに?
- 次回までに?
- それともまさか今回?
- 落とさないと予防接種してくれないのか?
当然だが、疑問が湧くだろう。
今回、同時にワクチン接種を受けに来た彼女に、肥満の問診について聞いてみた。
「そんなこと一言も聞かれなかったよ」
薄々予想していたが、やはり人を見て、肥満かどうか聞いているのだ。見ているなら、聞かなくても良かろうに。聞いて、羞恥プレイのように肥満と自己申告させ、弱ったメンタルの状態でワクチンを接種して、副反応が起こったらどうする。
状態観察エリアで、様子見をしている間、皆、大人しく静かにしているのに、僕と彼女だけが、BMIがどうのこうのと、ペラペラ話していた。
あれこれと思うところはあるが、先生に言われたとおりにするしかないだろう。4週間後、2回目接種の際までに、BMIを28まで落としておくしかない。
しかし仮に、BMI28になったとして、肥満のある、なしは、どちらで答えるべきなのだろうか。
インフルエンザワクチン接種に比べ、さすがコロナワクチンは一筋縄で行かないのである。