どこからか、金木犀の香りがする・・・。

もう、そんな時期か、と一人の人を思い出す。


私が高校3年の夏、おなかに小さいしこりを見つけた。

夏休みの前に小指ほどだったしこりは、

夏休みが終わる頃には拳大になっていた。


2学期が始まって、すぐ受診した。

原因不明、治療方法も不明のまま入院。


内科も婦人科もお手上げで外科にうつった。

何もわからず、手術するしかないということだった。


その外科の6人部屋で彼女と出会った。

彼女は、小、中、高と同じ学校の一学年下の男の子のお母さんだった。

乳がん、肺転移・・・それが彼女の病名だった。


私は、学校でいつのまにか不治の病ということになっていたらしい。

私のために、学年をあげて千羽鶴を折ってくれていた。


そんな私に一人男の子が面会に来てくれた。

野球の巨人の元監督、川上哲治の甥っ子の彼だった。

部屋で話をしていたら、前述の彼女の肺の胸水を抜く処置をするから

部屋から出て行くように、看護師さんが告げた。


彼は、いつも寂しい目をしていた。

どうして、面会に来てくれたのか今もわからない。


私のおなかのしこりはもう、手のひらくらいに大きくなり、毎晩熱が出た。

手術が決まっていた前日、主治医は早く手術した方がいいと

緊急手術となった。

母が学校に連絡し、手術直前に担任と友達が面会に来てくれた。


クラスで私のことがかわいそうと、女の子が泣きだした、と後で聞いた。

泣いてくれた彼女は、その後、自ら天へと帰ってしまい、もう二度と会うことができない。


手術して、排膿したがなかなかよくならなかった。

3週間で退院したが、その後3回、切開を繰り返し、傷は開放のまま

3か月消毒に通院し続けた。


その通院した土曜日、乳がんの彼女が天に帰ったことを知らされた。

ただ、ただ・・・・涙が出た。

明るい、とてもステキな人だった。


彼女が遺した息子たちのことを思うとなおさら泣けて仕方がなかった。

ひとしきり、泣いて病院を出た時

金木犀の香りがした。


金木犀は彼女を思い出させる。

あの高校3年の入院生活、それは私にとって、

人生の転機となる大切な出来事だったから・・・。