ーーー1年前、ラッパッパ部室
ダン!と部室のドアが蹴り開けられる。吹き飛んだドアが、部室の奥の赤い椅子に掛ける女のすぐ横を通り過ぎて、後ろの壁にぶつかって倒れた。椅子に深く掛けているカーキのカーディガンを着た目つきの鋭い女は、ニヤリと笑って微動だにしなかった。
「生きのいい一年坊がいたもんすねぇ」
側面側の壁に背中を預けるグレーのパーカーの女もニヤリと笑って言う。
「初日に私のところまで来やがるとはな。なかなかやるじゃねぇか」
入り口に立つのは髪を高くひとつくくりにした女。目は血走り、その拳には鮮血が滴っている。
「あんたがセンター。そんでそっちがネズミだな」
椅子に掛けた女《センター》とパーカーの女《ネズミ》は名前を呼ばれて、クッと入り口の女に視線をやった。センターが切り出す。
「口の利き方をしらねぇ様だな。とりあえず名乗れや」
「ここで礼儀を指導されるなんざ思ってもみなかったな」
「とんだ馬鹿野郎ですねぇ。どんな世界にも礼儀ってのはあるもんっすよ」
ネズミがこの上なく冷静に言う。入り口の女はフッと鼻で笑って、右の拳をセンターの方へ向けた。
「私は武藤十夢。初日から礼儀知らずで悪いが、その椅子を貰いに来た」
十夢の真っ直ぐな瞳を見て、センターは笑った。それはなんの含みもない、純粋な喜びからくる笑顔だ。
「本当に面白い奴だ。ところで階段にいた奴らはどうした」
「全員おねんねだ。私は初めから1人じゃないんでね」
十夢の後ろからヘソが見えるくらい丈の短い制服を着た女が現れる。
「あの、ユウカと申します。初日からほんとすみません、この子ちょっとせっかちで」
「うるせーな。急いてはことを仕損じるだろ!」
「だから焦っちゃダメなんじゃん……」
センターは2人を見て微笑ましく思った。ネズミは不愉快そうだ。
「センター。さっさと始めよう。フォンデュの奴らも保健室に連れてってやらねぇと」
階段で倒れているのであろう四天王の一角、チームフォンデュの面々を気遣う言いようでネズミがセンターを急かす。
「そうだな……始めるか!」
ズオオッ
「「!!」」
センターが赤い椅子から立ち上がる。それを見ていた十夢とユウカに戦慄が走った。嬉々として輝く瞳は血と肉を求めている。2人にはセンターがまるで飢えた獅子のように見えた。
「ユウカ、お前はネズミを頼む。センターは私が」
「気をつけて、十夢。あいつ半端じゃない」
「わかってる」
「早く来い。こっちだ」
センターがネズミの凭れかかる壁側についている木製のドアを開く。その奥には楽器の飾られた仄暗い部屋がひとつ。そこ、《音楽準備室》は挑戦者を讃え、打ちのめすための部屋なのだ。
十夢は躊躇わず足を踏み入れる。ネズミはそれを見送ってドアを静かに閉め、ドアに肩に凭れ冷たい目をユウカに向ける。
「センターは力を測り終えてから相手を倒したがるんすよ。でもね、私は違う」
「?」
「事を図る鼠だと思ったら大間違い。急いたから仕損じた事をお家で嘆くんだな」
ーーー
バキィッ……
センター、十夢。お互いの拳がお互いの頬を撃ち抜いている。2人は拳を頬に受けたまま、動かない。
「あんた強えなぁ。でも私の方が強え」
ニヤリと笑うのは十夢。
「でも、私の方が、強、え……」
ぐらりと黒目が揺れ、地面に突っ伏した。
「はぁ、はぁっ。しんどっ。歳かな」
センターが両手をだらんと下ろして低い天井を見上げて言う。その肩は大きく上下し、顔にはところどころ傷が入っている。
足元に目を向けると、笑顔のまま頬を地面に預ける十夢が目に入った。
「ちげぇな。こいつが強かったんだ」
優しい目で倒れる十夢を見るセンター。
ゆっくりとドアが開いて光が差し込む。開いたドアにネズミが腕を組んで片足で凭れかかった。馬鹿にするような顔で手をひらひらしながら言う。
「あーら王様、ボロボロじゃないっすか」
センターはそんなネズミを見てにっこり笑う。
「そういうお前は無傷か。良かった」
ネズミは頬を赤らめながら憤慨する。
「良くねぇよ!テッペンが一年坊相手にボロボロじゃ威厳もクソもねぇだろうが!」
「まぁまぁそんなに怒るなってー。その一年坊をこっちに巻き込んじまえばいいだろ?」
「あーら、それは妙案だね。けほっ、けほっ」
音楽準備室の入り口に人影がもう一つ。口にマスクをし、弱々しく咳をしながらそう言った。それを見たセンターは驚きの声をあげた。
「ひ、日那!?」