1回目の施術が終わって、かみさんや看護師さんに当たり散らす私に
見慣れない集団が現れました男2名女性2名で、いずれも深刻な顔を
しています、年長の男性が”この度は、大変なご苦労だったみたい
ですね、H先生から依頼がありましてお邪魔して、お話を伺ったり、
お慰めしたりするように仰せつかって伺いました”と舌を噛みそう
なバカ丁寧な挨拶をしました。私はわが家に時々、全身で不幸を背
負ったようなひとが幸せのパンフレットを配るひとたちかと思いま
した。でも白衣を着用していますから病院のひとたちなんでしょう
つぎの年配の男性が”誰だって治療を受けるときは不安になるもの
です、でもよく頑張りましたね”と死にそうになったことも知らな
いでよく言うよと思いました。しばらく沈黙が続きました。で、私
が”東南アジアに出稼ぎにいった端の苦しさに比べたらなんでもな
いですよ”と場違いなことを口走ってしまいました。咄嗟に出た言
葉ですが今だに英語がしゃべれないトラウマを引きずっているんで
すねえ。葬儀屋みたいな連中は”へえ東南アジアですか、国は何処
ですか。で、何年いたんですか、仕事はなんですか”などとおよそ
病院とはかけ離れた話題で、ひとりで盛り上がりました。話題を切
り替えるべく女性の一人が病人に添った雰囲気で”悩んだり困った
ようなことがありましたら、いつでもお呼びください”といったか
と思ったら、それを合図にリーダーらしき男性が”今日はこの辺で
失礼します”といって一斉に姿を消しました。かみさんが”折角、
みなさんがいらしたんだから少しぐらい話を聞いてあげたらよかっ
たのに”と言いました。”オレばすぐ死ぬて思うて来たとやろうが
そげな連中の話ば聞かるっか!”と口では勇ましいことをいうくせ
に息があがってしまいました。しばらくしてH先生が現れて”元気
なようですね。その調子なら大丈夫です”と言いますから、”葬儀
屋が予約ば取りに来たごたったばってん誰ですか”と訊きましたら
”カウンセラーの先生たちです、しかし熱弁だったと聞き安心しま
した”とイタズラっぽい表情をして消えて行きました。また1週間ぐ
らいして4人組が現れました。見えるのは結構なんですが沈痛な面
持ちの顔が4つもありますと、こっちまで憂鬱になりますな、そこで
また南方の話で煙りに巻こうとしましたら今まで口を開かなかった、
女性が”お話では点滴中から歩いたそうですが大丈夫ですか”と驚い
たような表情で話かけてきました。待ってましたとばかりにまた老人
の独演会が始まりました。如何に辛くて苦しかたったか2回目からは
ふらつきながら点滴中にも動き回ったことなどうんざりするほど話が
続きました。長話に耐える先生方はさすが、人に寄り添うのが商売の
先生方だと感心しました。しゃべり疲れた私は”いやぁつまらない話
を長々とありがとうございました”とついお礼を口にしてしまいまし
た。口々に賞賛の言葉を浴びた私はすっかり上機嫌になり、その様子
をみてとったリーダーらしき男性が”大変貴重なお話や常識では考え
られないような行動力には頭が下がります、しかし、くれぐれも担当
医の指示を受けてからになさって下さい”と言ったかと思ったら前回
同様にあっという間に消えて行きました。それ以来、寄り添う人たち
は現れませんでした。しかしなんですな、いくら重篤な患者を相手す
る職種であっても、前傾姿勢で重苦しい表情は考えものですな。出来
ることなら痩せて如何にも死神が寄ってきそうなタイプではなく、ぽ
っちゃり型でネアカなひとがよろしいようで、(ポカッ!この人手不
足なときに贅沢いうんじゃないの、暇人のいうことをイチイチ聞いて
くれるだけ有り難いわよ!)、そりゃそうだ。
いざとなると 人間は弱いからねえ 人間のわたし
相田みつお 代読 ぐっさんハイ
見慣れない集団が現れました男2名女性2名で、いずれも深刻な顔を
しています、年長の男性が”この度は、大変なご苦労だったみたい
ですね、H先生から依頼がありましてお邪魔して、お話を伺ったり、
お慰めしたりするように仰せつかって伺いました”と舌を噛みそう
なバカ丁寧な挨拶をしました。私はわが家に時々、全身で不幸を背
負ったようなひとが幸せのパンフレットを配るひとたちかと思いま
した。でも白衣を着用していますから病院のひとたちなんでしょう
つぎの年配の男性が”誰だって治療を受けるときは不安になるもの
です、でもよく頑張りましたね”と死にそうになったことも知らな
いでよく言うよと思いました。しばらく沈黙が続きました。で、私
が”東南アジアに出稼ぎにいった端の苦しさに比べたらなんでもな
いですよ”と場違いなことを口走ってしまいました。咄嗟に出た言
葉ですが今だに英語がしゃべれないトラウマを引きずっているんで
すねえ。葬儀屋みたいな連中は”へえ東南アジアですか、国は何処
ですか。で、何年いたんですか、仕事はなんですか”などとおよそ
病院とはかけ離れた話題で、ひとりで盛り上がりました。話題を切
り替えるべく女性の一人が病人に添った雰囲気で”悩んだり困った
ようなことがありましたら、いつでもお呼びください”といったか
と思ったら、それを合図にリーダーらしき男性が”今日はこの辺で
失礼します”といって一斉に姿を消しました。かみさんが”折角、
みなさんがいらしたんだから少しぐらい話を聞いてあげたらよかっ
たのに”と言いました。”オレばすぐ死ぬて思うて来たとやろうが
そげな連中の話ば聞かるっか!”と口では勇ましいことをいうくせ
に息があがってしまいました。しばらくしてH先生が現れて”元気
なようですね。その調子なら大丈夫です”と言いますから、”葬儀
屋が予約ば取りに来たごたったばってん誰ですか”と訊きましたら
”カウンセラーの先生たちです、しかし熱弁だったと聞き安心しま
した”とイタズラっぽい表情をして消えて行きました。また1週間ぐ
らいして4人組が現れました。見えるのは結構なんですが沈痛な面
持ちの顔が4つもありますと、こっちまで憂鬱になりますな、そこで
また南方の話で煙りに巻こうとしましたら今まで口を開かなかった、
女性が”お話では点滴中から歩いたそうですが大丈夫ですか”と驚い
たような表情で話かけてきました。待ってましたとばかりにまた老人
の独演会が始まりました。如何に辛くて苦しかたったか2回目からは
ふらつきながら点滴中にも動き回ったことなどうんざりするほど話が
続きました。長話に耐える先生方はさすが、人に寄り添うのが商売の
先生方だと感心しました。しゃべり疲れた私は”いやぁつまらない話
を長々とありがとうございました”とついお礼を口にしてしまいまし
た。口々に賞賛の言葉を浴びた私はすっかり上機嫌になり、その様子
をみてとったリーダーらしき男性が”大変貴重なお話や常識では考え
られないような行動力には頭が下がります、しかし、くれぐれも担当
医の指示を受けてからになさって下さい”と言ったかと思ったら前回
同様にあっという間に消えて行きました。それ以来、寄り添う人たち
は現れませんでした。しかしなんですな、いくら重篤な患者を相手す
る職種であっても、前傾姿勢で重苦しい表情は考えものですな。出来
ることなら痩せて如何にも死神が寄ってきそうなタイプではなく、ぽ
っちゃり型でネアカなひとがよろしいようで、(ポカッ!この人手不
足なときに贅沢いうんじゃないの、暇人のいうことをイチイチ聞いて
くれるだけ有り難いわよ!)、そりゃそうだ。
いざとなると 人間は弱いからねえ 人間のわたし
相田みつお 代読 ぐっさんハイ