ある公共施設では2階から、社交ダンスの模様をながめます。そうして
私と踊っていただける方がみえているかどうかをチェックします。そして
いないと思ったらプールに直行します。たまに素敵なカップルが現れた
ら、しばらくは観戦します。そんなある日ひさしぶりにダンス道楽が困じ
て本宅のK市と彼女が居るN市を往復している、羨ましい身分のおっさ
んが目にはいりました。その相方がNで同居している女性でした。あた
しゃ目を疑いました。といいますのは、おっさんの話では彼女が多量の
出血をして病院に駆け込んだら末期の子宮がんだったというのです。
もう手術をしても手遅れだから、抗がん剤に賭けようと投与したら髪が
抜け食欲も衰えて痩せこけて、別人みたいになってしまったという話を
聞いてから半年近く姿をみていませんでした。そんなカップルが私の目
の前に現れたんですから慌てて天国から下界に急行しました。スタンド
を降りました。間違いなく私の目の前には、ほっそりした彼女が立って
いました。そうして私に向かって”踊ろう”といってくれました。おっさんの
方をみましたら頷きましたので慌ててシューズに履き替えて彼女の前に
立ち音楽に合わせながらステップを踏みました。私は”いやあ、驚きま
したよ、それにしても、よくお元気になりましたね”といいましたら”いいや
違うとよ、カツラば被て来たと、あのひとに無理ばいうて車に乗せてきて
もろうたと”と耳元で囁きました。”うんや、よう来なったね、よかった”と、
彼女をハグしました。急に、こみ上げてきて不覚にも涙が出てきました。
彼女も泣いていました。事情を知らない周囲のひとは、なにかトラぶった
のかという顔をしていました。ダンス道楽で身を崩したおっさんのお気に
入りの女性ですから、踊りは絶品です。私は1曲で失礼しましたが次々
にリボンさんのような踊り手が彼女と踊っています。踊り終わったら深々
とお辞儀している男性もいます。滅多に来ませんでしたが、彼女が来る
と会場がピリッとなるくらいオーラというんでしょうか会場が華やかになる
んです。そんな彼女も3曲ぐらい踊ったら座り込んでしまいます。気力で
踊っていたんでしょうが、ずっと寝たきり状態で食事も満足にとらないで
駆け込んできて一般人でも息があがってしまうダンスを立て続けに踊っ
ているさまは、まさに最期の残り火を燃え栄えてしまうまのような壮絶な
姿でした。社交ダンスって凄いな。そうして、ちょっと目を離したら、ふた
りの姿はありませんでした。また彼の車で3時間の道のりを帰っていっ
たんだと思いました。私は奇跡のダンスを目にしながら、また何度目か
の抗がん剤治療と戦っているんだと思いました。どうかまた奇跡のダン
スが再現することを心から祈らずにはいられませんでした。たかがダン
スされどダンス。
最期の残り火に執念を燃やした彼女は幸せそうでした
どうか、またお越し下さい(パチパチ)。 ぐっさんハイ!