落語家さんと着物 | 大賀屋呉服店7代目「いいきものがかり日記」

大賀屋呉服店7代目「いいきものがかり日記」

創業219年目を迎える岡崎市の呉服店7代目。新聞記者(企業取材)➡コンサルファーム➡着物屋で現在。スポニチ、中日新聞,地元ラジオ局など掲載歴多数、各種講演も実施中。主に岡崎市内の出来事や日本文化、老舗経営や映画について書いてます。趣味は映画鑑賞、読書、将棋

 

3月開催する落語会。少しずつ準備が進んでおります。

※詳しくはhttps://www.facebook.com/events/150617069065360/

 

 

これににちなんで落語家さんと着物のかかわりに関心が。

岡崎出身の家落語桂鷹治さんをお招きしての落語イベントを控え、まずます落語づいています。

先月発売されたこんな本を買ってみました。今年1月発売したばかりの新刊「落語家と楽しむ男着物」。

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落語家視点での着物の着こなし術や粋に対する考え方、着物を通じた日本文化に対するエッセイなど、ぎっしり紹介されています。

表紙をみると、笑点でおなじみ春風亭昇太師匠のおとなりには、桂鷹治さんの師匠にあたる11代桂文治師匠が。落語家さんの着物の着こなし、色の合わせ方は本当に勉強になります。生き方が着こなしに出る感じがとても素敵です。

 

落語家さん6人の着物に対するこだわり、スタンス、楽しみ方をまとめたインタビュー本。

コラムや落語の楽しみ方も載っており、勉強になります。

 

落語いえば「着物」。スーツ姿では趣きも半減する、伝統における決まりごと、お約束です。

着物、センス、手ぬぐい、座布団。この決まりごとを踏まえたうえで、人を笑わせて、ほろりとさせる。

言葉ひとつで人物を描き出し、人の頭の中で動き出す。これは落語の醍醐味です。

究極のR-1だと思っております。

 

 

戦前までは噺家の着物といえば「黒紋付の染め抜き5つ紋」と相場が決まっていました。

いまでも昭和の大名人とうたわれる偉人たちのVTRを見ていると多くが黒紋付です。ただ、昭和時代に落語番組がテレビで人気を博したりすると、カラフルな着物も増えております。その一方で、話が主役なのだから着物、小道具はあくまで邪魔しない程度に地味にという考えもあります。そこには落語家さんの芸能に対するスタンスが垣間見えることも。そんな落語の着物のお話。

 

 

噺家の着物は、戦闘服? はたまたビジネスユニホーム?

先日桂鷹治さんと食事する機会があり、いろいろ聞いてきました。こういうとき落語素人は強い。

「落語家さんは普段も着物なんですか?」と伺ったところ、移動やプライベートはスーツとのこと。一方で、常に着物の師匠もいるようで、その鷹治さんの師匠、11代目桂文治さんはほぼ毎日着物、高座のときは黒紋付が多いようです。

 

 

高座に上がる時の着物の柄や色は自由です。最近は、噺家のキャラクターに合わせて派手な色や柄の着物をお召しになる噺家さんもいらっしゃいます。実際には、師匠や兄弟子、ひいき筋からゆずってもらうことも多いようです。実際、着道楽というか、目の肥えた落語家さんは多いです。

 


笑点の影響も強いのでしょう。パステルカラーのはっきりした着物を着るイメージもあるようですが、東京での寄席に行くと結構渋い着こなしが多いようです。反対に上方落語では派手な色合い、明るい色目の噺家も多いようです。

笑点の場合、おそらく、テレビ的な演出もあるかと。視聴者、観客が見て、話し手の区別やキャラクターがわかるようにとの配慮もあるかと思います。古くはゴレンジャー、最近ではももいろクローバーZというところでしょうか?

 

 

さて、落語といえば、まくら話。客の緊張や話の展開を図るための導入話。

噺の本題に入る合図で脱ぐ羽織。この羽織は、二つ目になってからでないと着ることができません。
まだ修業中の前座には羽織がありません。これは寄席に行くときに、噺家のランクを見分ける目安になります。

 

紋付羽織は、プロの噺家の象徴。シビアな話をすれば、落語会を開いて木戸銭で日銭を稼げるようになるのも二つ目から。真打になるのも当然うれしいでしょうが、前座修行を終えて、自分で稼げるようになるのもすごい喜びであると想像できます。桂鷹治さんは2015年に二つ目に昇進したばかり。気合が入っています。

 

 

 

落語の場合、羽織紐は、脱ぐ動作があるため結ぶタイプのものを使います。この場合、無双紐と呼ばれる一文字の形をした羽織紐よりも結び目のあるほうが、目を引きますし、脱ぐ際の所作がスマートなのです。また羽織の裏に、向かい干支の刺繍や絵柄を入れるなど凝った師匠筋もいらっしゃるようで。噺にあわせた柄を入れたり、また反対干支をいれたり、縁起担ぎの小紋柄をいれたりと。

 

※反対干支とは、自分の向かい側の干支のこと。この向かい干支を大切にするとその干支が守ってくれると信じられ、子供の肌着や着物にも母親が刺繍したと言います。

 

お侍さんの噺や、所作が大きく着物の前がはだけそうな噺をかける時は、袴をつけたりもします。またあわてもので早とちりの町人や大工の棟梁が出てくるような噺には、羽織紐も町人風の喧嘩結びだったり。(※喧嘩結びは引っ張ればすぐにほどけて、粋な雰囲気の出る結び方とされます)

そんな事情もわかってくると、落語もまた面白いところでございます。