最初にお断りしておくと、本文は濃淡のある根拠を元にした(一応ある程度の事実を交えつつ)妄言を連ねた内容かつ執拗に長尺なので、読み付き合うのが辛くなったら無理をなさらず、ご興味のある他の方のブログへどうぞ飛んでいただきたい

ということで、読後はノークレームでお願いしたいのと、合わせて断らせてもらうと、この記事でいう「経済学」とは、ビジネス、つまりお金に関することである

 

 

 

 

 

 

このテーマでブログを書くそもそものきっかけは何故に「体温、鼓動」は8曲のアルバムとしてリリースされたのか、というちっさな疑問が沸いたからだった

デビュー30周年を飾る渾身のアルバムだから、その内容の詳細が明らかになる前にはさぞや豪華絢爛、収録曲数も倍の15曲位のボリュームを何となく期待していたが、世に出たのはまるで真逆のピアノトリオの編成によるシンプルなアレンジによる小規模なアルバムだった

いやそれが不満という訳ではない、演奏のクオリティを含む曲そのものの水準は古内東子の真髄ここにありという見事な出来栄えだと思う 

(当初から記念第1弾という気になるセールスフレーズは、その後いつだったか情報が東子さん自身のコメントにより更新され、時期未定ながら第2弾の"新譜"が用意されるようだ)

 

では何が引っかかるのか?

そもそもプロのミュージシャンがリリースするアルバムを1枚作るのに、一体幾らかかるのか、その予算はどのように決まるのかということを想像したり調べたりしたことがあるだろうか?

この話題は興味を持ってから色々と調べたが、ことレコード会社の機密にもかかることだからちょっと調べた位では真偽がはっきりするネタは残念ながら見つからない

それでも、仮に10曲入りのアルバムを10万枚売るためにかかる総経費というのは2億1千万以上というデータをようやく入手できた

当然制作規模や契約、セールス計画の内容次第でこのコストは安くも高くもなる訳だが、さてこれを回収する為の売り上げの話となると東子さんがデビューした93年と現在は大きく事情が違っている

ご存知の通り業界規模そのものが小さくなり、CDは折角お金をかけて作っても売れないと言われて久しい 

ちなみに1993年の音楽CD生産枚数(シングル、アルバム合計)は3億8155万枚に対して2021年は1億393万枚まで縮小している

(データは一般財団法人 日本レコード協会の資料より借用 https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2021.pdf )

 

何より世に出る曲の消費スピードが早く、ロングランにでもならなければ長くても数週で世間の記憶から消え去るような環境で、加えて93年当時には影も形もなかった配信サービスは今や音楽ソフト売り上げ全体の3割弱に規模が拡大、更に昨今の加熱するビニル盤ブームの情勢が事態をより複雑にしている

つまり、CDというメディア単体ではアルバムは作りづらくなっているという厳然たる事実である

レコードに限らず、不景気の昨今では基本的な商品企画の前提として、発売後のプロモーションコストの回収までを勘定して、ローリスクハイリターンの目標が第一に掲げられる

間違いなく様々な企画に合わせた予算編成がまずレコード会社で行われるはずで、この段階でどんなコンセプトのアルバムを出すか、ミュージシャン他関係者による検討時間が設けられるだろう 

しかも東子さんの今回のアルバムに限れば30周年記念企画という、レコード会社としては市場によりアピールし易いタイミングが用意されている(かつて在籍したソニー傘下のレーベルからのリリース、という条件も往年のファンに好意的に受け止められるだろうと、企画検討時にレコード会社の会議室にあるホワイトボードにデカデカと書き込まれただろうことは想像に難くない)

 

最終的に「体温、鼓動」の概要の上程は、上記に連ねた様々な環境を今回自らプロデューサーを務めた東子さんがまずどう捉えたか、ということの結果なのである

(その2へ続く)