NHKのプロジェクトXを見て思うこと、その2です。といっても正直私のような田舎の零細メーカー勤務の人間には、番組で取り上げられているようなメジャーな内容は少し世界観が違うし、そのまんま当てはめて共感とかどうこうというのはちょっと違うと思っています。

 

とはいえ一応機械の開発・製造・販売を行っている会社に勤務している関係上、番組で取り上げられる有名メーカーの開発秘話的な出来事の縮小バージョンというのは当然あります。しょぼい機械はしょぼいなりにそれぞれの業界の中で求められる課題をクリアするための数多くの問題に日々直面します。

 

私も過去30数年間いくつかの機械の開発にかかわってきました。身バレ会社バレしたらまずいので、どんな業界かは書きませんが、何度かはテレビでも紹介されたこともあるし、実は日本中の皆さんの日常生活にも結構かかわっています。70歳に手が届くようになった今も結構長い時間CADの画面の前に座る日々を過ごしています。とはいえ最近は開発よりは図面の整理整頓の方が多いのですが(笑)。年寄りは2DCADだけで現在主流の3DCADが使えないのでちょっと役不足なのも現実です、ハイ。

 

以前工場見学で一般の方に機械の説明をしているときに、年配の女性から開発にあたってどんな苦労があるのか?的な質問を受けました。実際に開発に携わっている人なら大なり小なり同じ経験があると思うのですが、線の1本も引けない状態で何日・何週間、時には数か月以上も画面の前でお地蔵さん状態になることはよくあります。でも考え続けているとやはり何か降りてくる瞬間というのがあるんですよね。そこからはサクサクと事が進むということは普通にあることです。

 

その時はその女性に対して上のようなこともあるんですよね、とお話ししたのですが、その方から「何かが降りてくるなんてまるで芸術家みたいですね」とちょっと小バカにしたような感じで言われました。まあその場は普通に笑って終わりました。でも後から冷静に考えたら、芸術家というのは表現に矛盾があっても許されるというか責任を負わなければいけないケースはまれというか、むしろそれが評価されることも多くあるわけです。でも機械の設計というのは常に各部品の整合性が求められ、矛盾は許されませんし、製品に対する責任も発生します。そして商品化された機械の大半は世間の目に触れないところで多くの人や社会の役に立ちます。つまり同じインスピレーションの産物でも芸術品と産業製品は置かれる環境が全く違います。でまあ私が思うのは世の中にあまた存在する設計者たちというのは実は有名芸術家にも劣らないすごい存在なのではないのか、ということであります。それを一部のフリーランスを除けば決して高くない給料でコツコツと社会の役に立つ機械や製品を創造しカタチにしているのですから。

 

今年も我が家にキジがやってきました