『経験と魂』 | 洋風文芸館(旧時計台)”おにょにょの館”

洋風文芸館(旧時計台)”おにょにょの館”

大正時代に金沢市を見下ろす卯辰山の山麓に時計台が建築され、洋風文芸館として今に残っています。文芸館の管理人”おにょにょ”は映画や文学、ときに音楽をこよなく愛する奇妙な生き物です。このブログはその”おにょにょ”が愛する作品達を、備忘録として残したものです。

生まれた時は幸せだった

まっさらな状態でうつくしかった

無垢というgenuineproductに他ならない稚児こそが

最上の状態なのだ



私は多くを経験して大人になった

人を殺したことはない

魂を殺したことはある

いくつの魂を傷つけて私は成長したのだろう

返り傷で私の魂も傷だらけだ



それは多くを経験した成熟した人間のそれでなく

ただすり切れて薄汚い薄っぺらいその程度のものだ

苦労をすれば人間ができると世間はいう

それはまやかしであり幻想なのだ



あれだけのことを経験すればと支えにしてきた

これだけやればと心の糧にもしてきた

しかしそれは魂にゴミがついた程度の物でしかなかったのだ



絶海の荒野で呆然と立ち尽くす私は

たった一人でちっぽけなどうしようもない存在だ

転回点を見いだすこともできず

転向しようにも舵も帆も風もない



いずれ死は来る、それまでは

憐れな野良犬となって残飯でもあさろうか