『女が演じる一人劇と私という観客に関して私が思うこと』 | 洋風文芸館(旧時計台)”おにょにょの館”

洋風文芸館(旧時計台)”おにょにょの館”

大正時代に金沢市を見下ろす卯辰山の山麓に時計台が建築され、洋風文芸館として今に残っています。文芸館の管理人”おにょにょ”は映画や文学、ときに音楽をこよなく愛する奇妙な生き物です。このブログはその”おにょにょ”が愛する作品達を、備忘録として残したものです。

薄暗いふるぼけた6畳間が今夜限りの舞台だった

ある女の演じる一人劇が今夜の演目である

女は黙って舞台に現れた

はじめて女をみつめたのはいつのことだったろう

今夜下から見上げた女の顔は恐ろしいまでに美しかった

空気の様に現れた女は

自らの精神に薄い肉体のヴェールをまとっていた

発する一言一言に全存在が結露した

女は生まれながらのactressである

女はそれと知らずして最高の演技を演じている

女は筋書きもエンディングも知らない

女が演じた跡がそのままストーリーとなるのだ

私はたった一人の観客だった

私はみとれ小さく丸くなった

私はただ肯き女のすべてを凝集する瞳をみつめた

私は輪郭をつかみ女の精神に触れたいと渇望した

女は生まれながらのactressである

私はたった一人の観客で

女をこの世界で最も愛する一人のしがない男である