薄暗いふるぼけた6畳間が今夜限りの舞台だった
ある女の演じる一人劇が今夜の演目である
女は黙って舞台に現れた
はじめて女をみつめたのはいつのことだったろう
今夜下から見上げた女の顔は恐ろしいまでに美しかった
空気の様に現れた女は
自らの精神に薄い肉体のヴェールをまとっていた
発する一言一言に全存在が結露した
女は生まれながらのactressである
女はそれと知らずして最高の演技を演じている
女は筋書きもエンディングも知らない
女が演じた跡がそのままストーリーとなるのだ
私はたった一人の観客だった
私はみとれ小さく丸くなった
私はただ肯き女のすべてを凝集する瞳をみつめた
私は輪郭をつかみ女の精神に触れたいと渇望した
女は生まれながらのactressである
私はたった一人の観客で
女をこの世界で最も愛する一人のしがない男である