このお話は私たちの住む世界の実在する人物とは一切の関係はございません。どこかにある違う次元の世界のお話です。
(腐、BL要素を含みます。ダメな方はお戻りください。)
「…ほんとやだよね…
勝ってほしいと思う反面、自分抜きじゃ無理であってほしい…
そんな醜いおいらがいたんだ…。」
俺に辞めた話を全て出し切って、スッキリした顔にはなっているものの、根がいい人だから自分に湧いた黒い感情が嫌だったんだな…。
「大野君、醜くなんかないよ!
だって散々自分を傷付けてきたとこだよ?
そんなの、そう思って当たり前だよ、俺だったら100パー落ちろって思うよ(笑)。」
自分を責めてほしくなくて大袈裟な言い回しをする。
「ありがと。
それで…やっぱり気になってこっそり近畿大会を観に行ったんだ。」
「ええーっ⁉︎
よく行けたね、怖く…なかった?」
含み笑いをした大野君からは意外な答えが返ってきた。
「ふふっ、帽子とサングラスで変装して観に行ったの(笑)。」
「ぷっ、あはははっ(笑)!
うっそ、何それ〜、想像したらめっちゃウケるんですけど(笑)!」
言われてすぐに思い描くと同時に吹き出して笑ってしまった。
「なんかね、自分で見ても怪しすぎんだろコイツみたいな感覚だったの(笑)。」
「…そ、それでバレなかったの(笑)?」
「うん、知り合いの先生や、同期や後輩も来てたけど、大丈夫だった。でも〝何だコイツ?〟的な視線は結構感じだけどね。」
そりゃそうだろう、演奏を聴きに来る格好じゃないもんな。でもある意味逆に目立ってたんじゃないのか、とも思ったけど。
「だけど、プログラムを見てびっくりしたんだ。まさかおいらがいた時のままの課題曲と自由曲がそこに書かれてたから…。
おそらくアルトのソロがない曲に変えてると思ってたから…言いようのないショックを感じた…。
おいら無しでやれるんだ…って、また嫌な自分が顔を出してきて願っちゃダメな事を無意識に願っている自分がいた。
それを聞いて〝神〟扱いの顧問のエゴだなと思った。大野君を失ったからって曲を変えたらプライドが許さなかったんだろうな…。
それこそ『お前がいなくても勝てるんだ』とでも言いたいんだろう。
「曲が始まって、ドキドキしながらその瞬間を待った…どっちがおいらの代わりを吹くのか?」
とてもじゃないけどソロなんてまだ無理な2年の先輩と、クラリネットから乗り換えた1年の女子…か…。
「…きた…先輩は楽器を下ろした。
聞こえてきた音色に驚いた…あの子、こんな音が出せるようになったんだ…おいらにはキレイな音に聴こえて…。
もう身体が震え出して、ずっとドキドキが止まらないまま自由曲が始まった…。
彼女のソロからスタート…。
おいらも苦戦してた〝低い『レ』の音〟がすぅっと耳に滑り込んできた…。
また心がザワザワしてどうしようもなかった。出来るなら心臓をかきむしりたかった。
…すげえ醜い感情が昂ぶって…
…間違えろ…
…って、思っちゃったんだよ!
う、う、うわーっ! ああ、ああっ!」
低く呟くように聞こえた『間違えろ』こ声に俺は一瞬ゾッとした。
その余韻に浸るまでもなく、すぐに興奮した大野君が泣き叫んだ。
「大野君っ!」
気付いた時には泣き叫ぶ声以上の音量で名前を叫び、思いっきり抱きしめていた。
俺より少し小さな身体を小刻みに震わせながら、胸に顔を埋めたままですすり泣いている…。
俺はさらに力を込めて、大野君の毒を全て受け止める思いで、強く強く抱きしめた。
その時だった、突然引き戸が開いたと同時に大野君を呼ぶ声が響いた。
「智〜、誰か来てるの〜?」
続く