このお話は私たちの住む世界の実在する人物とは一切の関係はございません。どこかにある違う次元の世界のお話です。
(腐、BL要素を含みます。ダメな方はお戻りください。)
「おいらね、
その先輩が一番好きだったんだ。」
…え…今…なんて…?
俺は血の気が引いていくのを止められなかった。
どんどん顔が青ざめているのが手に取るように分かる…。
「…あ、誤解しないでよ、変な意味じゃないからね…?」
俺がきっと、大野君のことを気持ち悪く思ってるんだと、勘違いしてるのか慌てて否定する。
以前にも同じようなことがあって、大野君を傷付けたことが思い出された…。
でも前と違うのは、俺自身が〝変〟に気付いてしまってるってことだ。
だけど、俺は〝変な意味じゃない〟という大野君のことが今ひとつ信じられなかった。
だけど、ここでややこしくなると話を聞けなくなるかもしれない…。
あえて俺は、出来るだけ普通に応対することにした。
「大丈夫だよ? 大野君…。
憧れの先輩みたいな感じでしょ?」
ホッとしたのか、大野君は困っていた顔がゆるやいで話を続けてくれた。
「…うん、そう。そんな感じ。」
今の俺ならなんとなく分かる…
大野君がその先輩に特別な感情を持っていたんだなってことくらい…。
少し遠い目をして過去の出来事を感慨深げに言葉を並べていく。
「…まあ、色んなこと経験したよ、さすが全国常連校だよね。地域のイベントには引っ張りだこで、マーチングドリル(演奏しながら色んな形を作りだすこと。)月に何回も行ったし、夏のコンテストの課題曲の模範演奏会なんかもやったなぁ。」
「マジで⁈ すご…まるでプロのオーケストラみたい!」
「ふふっ。中学向けの模範演奏会は気持ちよかったかなぁ。
他校よりも早く課題曲も貰えるし、4曲とも吹かしてもらえるし。櫻井君は知らないと思うけど、去年の課題曲Aは結構長めのアルトのソロがあってね、色んな吹き方を要求されたのも面白かったなぁ。」
「うっわっ! それ生で聴けたヤツ最高に羨ましいよ! ライブ録音とかないの? すっげぇ、欲しいんですけど!!」
「3年の先輩達はもらってたみたいだけど…1年の元には…ね…。」
あ、そうか、そうだよな。
俺、ついつい興奮しちゃって…大事な話の途中だったのに…っ。
「あ、でも地元の中学生の子たちに〝ファンになりました!頑張ってくださいね〟って言われたのはすっごい嬉しかった…。
だから、辞めたことでこの子達を裏切ったみたいになったのが心残りなんだけどね…。」
ヤキモチをやきそうになるのをグッとこらえて、そんな風に思える責任感のある大野君の言葉を噛みしめた。
「…夏休みに入るとね、自宅から通ってた部員も全員が寮で合宿をするんだ…。」
核心に迫りつつあるのか、大野君の表情や喋り方は一層小さいものになっていた。
「合宿が始まるのをずっと恐れてた…
フルートの先輩たちと毎日一緒に過ごすことになるから…。」
話しながら大野君の指は、無規則に握ったり伸びたり、力が入ったり緩んだり…を繰り返している…まるで手に絡まった蜘蛛の糸を拭うかのようにずっと…。
「やっぱり想像してた通りの毎日が始まって、憂鬱で仕方なかった……
けど唯一の救いだったのは、部屋割りがパートごとだったことかな。」
逃れられない指を動かしながら、ぎこちない笑顔を俺に向ける……。
本当は今すぐにでも抱きしめて、
『大丈夫だから、俺がいるから!』
って言いたいよ……大野君…。
「2週間くらい過ぎた頃、いくつかのイベントと夏のコンテストの練習が進んでく中で、それは起きたんだ…。
そして、おいらとTR校をつないでいた糸が切れたんだ…。」
いつの間にか喉がカラカラになっていた。
〝ゴクン〟と生唾を飲み込んだ。気がつくと俺も緊張してきていた…。
いよいよ大野君が決断した理由が分かるんだと思うと…。
続く