「ア」音が作る叙情性
歌謡曲は歌い始めの第一音で人気が決まるといわれています。そんな見方をしてゆくと、ヒットした歌謡曲には出だしの部分に「ア列音」がたいへん多いことに気づきます
「歌謡曲全集」にある536曲の出だしの1音を調べてみたら、その49%がア列音で始まっていました。
「歌謡曲の出だし拍調査」
ア列音 264 曲 49%
イ列音 91 曲 17%
ウ列音 65 曲 12%
エ列音 12 曲 2%
オ列音 102 曲 19%
私は音相理論の中で、「ア列音」は「明るさ、穏やかさ、暖かさ」などのイメージを作るほか「どのような音の中にもスンナリ溶け込んでゆけるニュートラルな性格があると述べましたが、人々を叙情の世界へ自然に誘いこむのに、ア列音のもつニュートラルさが効果をあげているからではないかと思うのです。
そこで、古代の叙情歌だが今も人気がすたれない「百人一首」の第一音を調べてみたら、符丁を合わせかのたように、ア列音で始まる歌がやはり100首中50首…50%ありました。
ア列音が情緒感を作るという、この仮説を裏づけるには、叙情を目的としない「軍歌」の出だしの1音にはア列音が少なくなければなりません。そこで「軍歌」を調べてみたら、やはりそこにはア列音がほとんどないのです。
「ここはお国を何百里、離れて遠き満州の・・・」(戦友)・・・(オ)
「とどろく銃音、飛びくる弾丸・・・」(軍神広瀬中佐)・・・(オ)
「どこまで続くぬかる溝ぞ・・・」(討匪行)・・・(オ)
「海行かば水づく屍・・・」(海行かば)・・・(ウ)
「貴様と俺とは同期の桜・・・」(同期の桜)・・・(イ)
「勝ってくるぞと勇ましく、誓って国を…」(露営の歌)・・・(ア)
「見よ東海の空明けて、旭日高く輝けば・・・」(愛国行進曲)・・・(イ)
「国を出てから幾月ぞ、ともに死ぬ気でこの馬と・・・」(愛馬進軍歌)・・(ウ)
そしてまた、戦中にはやった歌でも叙情性の高い曲には、ア列音で始まるものが多いのです。
「さらばラバウルよ、また来るまでは・・・」(ラバウル小唄)・・・(ア)
「ああ、あの顔であの声で、手柄頼むと・・・」(暁に祈る)・・・(ア)
「わが大君に召されたる・・・」(出征兵士を送る歌)・・・(ア)
「朝だ夜明けだ潮の息吹・・・」(月月火水木金金)・・・(ア)
言うまでもなく、これらは作詞者が意図して作ったものでなく、歌の雰囲気が自然に作った住み分けにすぎないのです。
意識以前のところで人の心を操っている、「音相」という不思議な世界の存在を考えずにはおられません。