単音の表情だけで、全体の表情は捉えられない
ネーミングの専門家たちの間で「濁音は暗い音だからなるべく使わないほうがよい。とりわけ語頭におくのは禁物…」などのことばをよく聞きます。
だが、「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」など、ヒットネーミングといわれているものに、濁音を冒頭においた例が限りなくあるのを見ても、こういう単純な言い切り方には大きな危険があることがわかります。
濁音には「暗さ」のほかに「落着き、重厚感、豪華さ、優雅さ、穏やかさ、暖かさ、暗さ…」など13の表情があり「暗さ」はその中の1つに過ぎないのです。
また、「アは明るい音」とよく言われますが「ア」には「明るい」のほかに「穏やか、無性格、汎用的」など11の表情がありますし、イは「強い、厳しい」といわれているほか「鋭さ、小ささ、異常さ、冷たさ」など18の表情をもっていて、中の1つが他の音素と響きあう関係ができたとき、初めてそれが顕在化された表情になるのです。
表情は、このほか次の場合にも生まれます。
たとえば、無声破裂音(p.t.k行音)とイ音の使用が多い語で、どちらにも「強い」「明るい」という表情語があるときは、ピ、チ、キ(pi,t∫i,ki)の音は「とりわけ強く明るい表情」になるのです。
ことばの音の表情はこんな複雑な仕組みで生まれるものですが、最近「N」(ナ行)の音は「甘く、セクシーな音」、「が」は「偉大さと凄みの音」など、明白な裏づけのないイメージを単音(拍)に与え、人の姓名から1つか2の単音を取り出して名前のすべてのイメージを言い切る人がいますが、人の名前も普通のことばと同じように、そんな単純な方法では捉えられないのです。
(木通)