日本語を美しく彩っている「無声化母音」
母音はすべて有声音ですが、母音「iまたはu」が特殊な音素の間に入ると、息だけは出るが声にならない音(無声音)があります。音声学では、そのような母音を無声化母音と呼んでいます。
無声化母音の入った拍は、「明るさ、軽さ、現代的、西欧的、異国的」などの表情を作ります。
日本語は拍の末尾に必ず母音がつくため音の響きが重たく単調になる欠点がありますが、ところどころに無声化母音が入ることで重苦しさや単調さが救われるのです。
明治のころ、漢字ばかりで作った社名「三越(「みつ」こし)、三井(「み」つい)、三菱(「み」つびし)、住友(「すみ」とも)、日立(「ひ」たち)」などの語を、今だに古く感じないのは、これらの語に無声化母音が多く含まれているからです。(無声化母音の拍を「」で示します。)
このような無声化母音の効用は、まだどこでも研究されていませんが、私は無声化母音は古くから日本語の音韻に底流している清冽な地下水脈のようなものではないかと思うのです。
無声化母音は、次の場合に生れます。
(1)母音uまたはiが無声子音またはm.n(有声音)の間に入ったとき。
例えば、「下谷」(∫itaja)のシの母音「i」は∫とt(ともに無声音)の間に挟ま
れるから無声化母音になりますが、「渋谷」(∫ibuja)のシは後続する子音「b」が
有声音であるため、iは無声化母音にはなりません。
この種の無声化母音をいくつか上げてみましょう。
(例)・「住」まい ・機関車(「き」かんしゃ)
・組合(「く」みあい) ・式場(「し」きじょう)
・気転(「き」てん) ・住友(「すみ」とも) ……
(2)語末の拍の子音が無声音またはm.n音で、母音がuで終わるとき。
(例)・~で「す」 ・メン「ツ」 ・勤務(きん「む」)
・シャ「ツ」 ・毛布(もう「ふ」) ……
(木通)