Q&A 会津八一の短歌の秘密
Q.私は、会津八一のひらがな歌が大好きです。言うに言えない不思議な魅力を感じるのです。
「ふぢはらの おほき きさき を うつしみに
あひ みる ごとく あかき くちびる」
このようなひらがな歌の美しさの原因を、音相理論と結びつけて説明できるものでしょうか。お教えください。(K・M)
A.ひらがな歌は、ベールのかかった魅力です。
八一の歌に魅せられたあなたに敬意を表します。
私もひらがなを追う八一の歌にひとしお魅力を感じています。
詩人、草野心平は「漢字は硬く、カタカナはジャックナイフ、ひらがなは天平美人の眉」と言いましたが、天平美人の眉とは手の届かないところにほの見える夢幻的なものを意味していると言ってよいでしょう。
ひらがなは、日本人が文字を持たない時代から使ってきた素朴な「やまとことば」の心を表現するにふさわしい字体のように思うのです。
ひらがな文字がなぜそんな雰囲気を作るのかを、考えてみました。
「かおり」という意味を持つ文字には「香、薫、芳、馨、馥、カオリ」など、
種々のものがありますが、これらには微妙に違うイメージがあり、中
の1つの文字を使うと、イメージが固定されてしまいます。
そのため、幅広い意味を含めて表現したいときは、やまとことばの「かおり」を使うのがもっともふさわしいことばになるのです。
やまとことばは語彙が少ないため意味の巾が広くなり、具体性や現実性には欠けますが、それだけに概念の幅が広くなり、「ことば、コトバ、詞、言葉」の上に薄絹の「紗」をかけたような雰囲気が生まれるのです。
会津八一のひらがな歌の魅力はそんなところにあると私は思います。
私は「言葉」という語を文字にするとき、ひらがなで「ことば」と書いていますが、これも同じ考えによるものです。ことばには、学問的な言葉、女性のことば、子供のコトバ、日本の言葉、外国のコトバ、故人のことばから神に通じる詞(ことば)までありますが、それらのすべてをまとめて言い表すには、「ことば」と書くのが一番ふさわしいように思っています。
(木通)